第12回(最終回) 利益計画、立地、例外否認、ワンマン経営
こんにちは。小山昇です。武蔵野の経営用語集『増補改訂版 仕事ができる人の心得』からお送りしてきたこのシリーズも今月で最終回。言葉を再定義することで事業への取り組みや会社との関係を意識し直すことができたでしょうか。仕上げは【ら行】と【わ行】。さあ、始めましょう。
―ら行―
*利益計画 (通番1354)
①目一杯の利益を出すことを目標にする。②そのための経費を惜しまない。③必ずプリントアウトする。全体を見て検討し、メモする。④メモが方針になる。⑤商品は数字が明確にとらえられることが大事。⑥商品群別に粗利益を知ることが大切。
解説: これはもう、黙って全部この通りに真似をしてください。とはいえ、手間さえ惜しまなければできることだけではないですね。②などは、経営者としてはなかなか踏ん切れないと思います。だから②についてお話ししましょう。
断言します。お金をかけずに業績は上がりません。この際披露しますが、武蔵野の稼ぎ頭の経営サポート事業が会員企業を一社抱えるのに、年間で経費をいくらかけていると思います? 1000万円ですよ! 粗利率が悪くないことと、大半の社長が3年、4年と継続してくださるものの、1年間は元が取れません。逆にいえば、その覚悟でお金を突っ込むから伸びるのです。
また、ここが一番大事ですが、そうやってちゃんとお金をかけてサポートすると、会員企業様の業績が見違えて伸びます。帳簿の数字が一桁大きくなる例もざらです。ですから、昔は社員の分の料金を惜しんで1人で勉強に来る社長が多かった。でも今は、多くの社長が社員をどんどん勉強に来させます。すると彼らは、帰ってからは見違えたように稼ぎはじめます。経費を惜しめば業績が伸びるのなら、誰だって社長が務まる。でも、それは経営とは言わないのです。
*立地 (通番1363)
店舗の繁栄の大きな要素です。④同じ条件なら坂の下。⑫火事のあとに立ったビルはダメ。⑬会社・店が発展して、空いたテナントは無条件で借りる。※編集部注、①②③⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪は割愛
解説: 立地の法則はたくさん項目がある中で、パートナー会員様からよく質問がくるものを解説します。まず④です。お客様の家から見て坂の上にある店と坂の下にある店では、距離が同じなら坂の下の店のテナントを借りること。お客さんは買い物に行く時は楽なほうに向かいます。帰りが上り坂でかえって大変になるとしても、です。帰りは買った分の荷物があるから坂を下ってきたほうがトータルでは楽ですが、そうやって理屈でお客様の心理をわかった気になると失敗しますよ。
次に⑫。これは、その土地はすでに「火の車」になっているからです。昔、武蔵野の新規事業部が中央線の某駅北口のビルに入居したことがありました。新しくてキレイなビルです。でも、この事業部が、何をどうやっても業績が上がらない。勝算はあるはずなのに、絶対当たる手をいくつも打ったのに、なんでだろう、と思っていたら、隣のビルの方が教えてくれました。火事になって保険金で建て直したビルだったんですね。即引き払ったことは言うまでもありません。
そして⑬。これも経験談です。荻窪駅から徒歩15秒の場所に武蔵野の事務所があります。最初にここを見に来た時に不動産屋が言うには、前は学習塾のトライさんが入居していて、生徒がどんどん増えて入りきらなくなったので駅の反対側の広いところに移ったとのこと。それを聞いて、言い値で即決しました。人は人が集まるところに集まるものです。土地も人も、ツキは非常に大事です。採用面接では「自分は運がいいほうだと思いますか?」と聞いたら「はい!」と元気よく答える人を採ってくださいね。
*例外否認(通番1379)
物事を成し遂げるためには必要です。これを貫き通せば日本一、世界一になれる。なんでも否認するのではなく、このことは例外を認めないということです。人間の常識が優先する。よいことも1人でやるのではダメ。よいことを提案し、それをみんなでやることです。堅い考えではない。
解説: 例えば雪が降った日の出社です。電車が遅れて遅刻しても、遅延証明書があれば遅刻にならないのが普通の会社です。武蔵野は遅刻です。例外を否認します。なぜかって? では聞きますが、雪でダイヤが乱れたとして、全員が遅れて来ましたか? 社員100人の会社で10人が遅刻したとして、例外を認めてまでその10人を特別扱いするのと、遅れずに来た90人に合わせるのと、どちらが正しいですか?
もちろん、住むところによって使える交通機関が違うのはわかります。事情はまちまちです。でも、だからこそ理由の如何を問うべきではない。遅延証明書があってもダメ。遅刻は遅刻です。武蔵野で過去一番顕著な例は、ちょうど約1年前、2016年1月18日の大雪の日でした。朝の社員勉強会になんと56人が遅刻。武蔵野では5分以上の遅刻は5000円の罰金ですから、その日だけで28万円の社内積立金ができました。ご存じのように武蔵野では罰金の積立金は社員旅行で使います。あの時は確か、あと32万円足して60万にして、200人で3000円ずつ、競艇の船券を買いました。私が買い方を指導したから何人かは大当たりしたはずです。誰が当たったか? 知りませんよ。名乗り出るバカがどこにいますか(笑)。
―わ行―
*ワンマン経営(通番1402)
ワンマン経営のみが正しい経営です。社長は社員とその家族がより豊かな生活を築くため、数字による目標を基盤として、わが社がこうなるという方針と意図を明確にし、目標を達成するために何をしなければならないか、また何をしてはいけないかを「経営計画書」にして社員に配布し、仕事をする上で最も重要な道具として活用する。
計画書に書かれた目標・方針に対する利益責任は、それを立てた社長一人がとる。社長の務めは、社員がやりがいのある仕事ができる条件を整えることであり、その結果、成果が得られれば、それは社員の手柄である。したがって、行動する主役である社員一人一人に実施責任をとっていただく。一番難しい仕事は社長が取り組み、ほかは無理を承知で社員に協力をお願いする。
解説: 最後はこの言葉でシメましょう。長文ですが、考え方自体はシンプルです。「責任を持てる人が目標も方針も経営計画も決めろ」ということです。例えば外でコップを割ってしまった時に、「ごめんなさい」と謝罪すれば済むのが社員。責任を負って弁償にあたるのが社長です。デイリーな業務が回り始めるまでは、責任能力のない者にその事業に関する決定権はない。不平不満が出ようがどうなろうが、ご自身の責任において、存分にワンマン経営をされてください。
そして、もし何かの事情でボトムアップ経営に切り替えるなら、社員教育を通じて全社で価値観を合わせる作業を、一刻も早く始めなさい。12回にわたり一緒に見てきた言葉の再定義も、社長と社員全員が価値観を合わせることがその目的でした。言葉や概念の受け取り方がそろうと価値観もそろいます。そろえる方向を生産的なほうに向ければ、会社がもっと良くなります。この連載がそのお役に立ったことを喜びながら、終わりにしたいと思います。
2011年11月に初めて連載を開始して以来3シリーズ、通算で5年と3ヶ月間。楽しみに読んでくださった読者の皆さんに、心から感謝します。ありがとうございました。
第12回(最終回) 利益計画、立地、例外否認、ワンマン経営

執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp