第11回 優秀なセールスマン、夢、予算
あけましておめでとうございます。小山昇です。皆さんはどんな年明けを迎えられましたでしょう。えっ、特に変わり映えがない? それは問題ですね。一緒にやってきた言葉の見直しによって、今年の御社は去年に比べて確実に一皮むけているのに、社長のあなたがそれにお気付きでないとは。よくご覧なさい。社員の皆さんの目が、目の光が、去年と違っているでしょう。『増補改訂版 仕事ができる人の心得』から今回お送りするのは【や行】。次の「ら」「わ」でゴールです。あと少し。頑張りましょう。
―や行―
*優秀なセールスマン (通番1327)
占有率の低いところ、敵の強いところに行かせてはいけない。わが社の一番強いところで活躍させる。
解説: もしかして皆さん、優秀な営業担当を激戦区に投入していませんか? もしそうならすぐ改めるべきです。そして、自社の力が強い商圏にぶつけなさい。理由を野球に例えて説明しましょう。
昔、プロ野球の国鉄スワローズに金田正一というとんでもなく強いピッチャーがいました。こいつが出てくると勝てないから、巨人などは最初からゲームを捨てて、金田が投げそうな日はいつも5戦目級のピッチャーを出し、エースは温存していました。
一見すると巨人はせこいです。でも、ビジネスではこれが正しい。なんせ相手は金田です。金田の投げる日にいくら負けてもダメージはさほど残りません。しかも、たまたま金田の調子が悪かったり相手チームにエラーが出たりすれば、勝てることもあるかもしれない。それに比べ、金田相手に意地でも勝とうとしてエースをぶつけて負ければ、チームのダメージはかなりのものです。次の日からの星勘定にも影響が出てしまいます。
つまり、自社より強い相手には“勝てたら御の字”の陣立てで挑み、多分勝てる相手には“必勝”の陣立てで臨む。これがビジネスの基本なのです。日本シリーズが始まる前にプロ野球解説者がこれと同じ発想でよく先発予想をしていますから、参考になさってください。
ちなみに、日本シリーズは先に4つ勝ちさえすればいいですが、経営者たる者、勝ちの中身も大事にしないといけません。今までに私が中身で勝った一番の例は、カバン持ち体験の社長と駅で寿司を買って昼飯をすますことになり、1個75円のいなり寿司をかけて勝負した時でした。社長は珍しく私に勝てて大喜び。うまそうにいなり寿司を食べていました。そしてその日の夜、今度は歌舞伎町で、勘定をかけて勝負。相手は昼間の勝ちで慢心していますから楽勝です。私が勝って1勝1敗。星勘定はタイです。でも中身は、150円と7万5000円。ね? 中身は大事なんです(笑)。
*夢 (通番1335)
やりたいことがやれない時は見ることができて、やりたいことがなんでもやれる時には目先の安易な要求に流されて見られないものです。夢は逃げない。逃げるのは自分です。実現のイメージを描くことです。
解説: 私は去年の春に“失敗のお作法”の本を出しました。(編集部注;『小山昇の失敗は密の味』日経BP社)それに倣って“夢を見るお作法”を具体例でお教えしましょう。
社員と飲む時はどんどんホラを吹いてください。去年の賞与が1ヶ月分の会社で、社長が年頭の決起新年会で「今年は3ヶ月にする!」と宣言したのに、実際支給されたのは半月だった。これは嘘で、罪です。いっぽう、飲みながら新入社員に「お前に給料1000万やる!」と言うのは嘘にならない。ホラです。新入りで年収1000万円ももらえるはずがないのは彼もわかっていますからね。私は、この類のホラを吹き続けてきました。そうしたら、入社何年目かで年収1000万稼ぐ社員が本当にちらほら出てきた。「夢を持たないとダメ。夢は言葉にしないとダメ」と実感しましたね。
考えてみれば私は、武蔵野を継いだばかりの頃も、ダメ社員の集まりだった当時の武蔵野で、事あるごとに社員に「お前の年収を1000万にしてやる!」と吹聴していました。それだけ利益を出せる会社にするぞ! という覚悟です。ホラでいい。夢を言葉にすべきです。昨夜も妻が言いました。「あなた、昔から言ってた新宿に進出するっていう夢、本当になったわね」。実は近々、新宿駅南口、LINEも入っているビル、JR新宿ミライナタワーに事務所を持つことになりまして。東小金井から吉祥寺に進出した時も「マジですか!? やった!」と社員のテンションが一気に上がりましたから、今度も大いに期待しています。
*予算(通番1341)
決まっている収入の中での使い方を決めることです。会社に予算という考え方を持ち込むのは間違いです。あくまでも計画であり、目標です。
解説: 政府が財務省にあげるのは予算です。予算の特徴は2つ。使い切らないといけないということと、それ以上入ってこないということです。つまり「予算」という言葉を使った瞬間にそのお金は減っていくいっぽうのものになり、「稼ぐ」という概念と切り離されてしまうのです。「この件の予算は500万円です」と言われると、1000万使えば段違いの利益が出せる計画があっても、社長に上がってこなくなる。「予算」という言葉は「それ以上のことは誰も考えなくてよい」という無意識を持たせます。それでは会社が良くなりません。
ですから、「予算」の代わりに「計画」と言ってください。それだけで発想が「これこれをするのにこんなにかかる」から「これだけかければここまで狙える!」に変わってきます。わが武蔵野では社員も社長に営業をかけてきます。先日もある社員が社内サーバーの件で、「経費は倍かかりますが、この案にすれば生産性がこんなに上がります。いいでしょうか」と言ってきました。社長相手の営業です。「迷うなバカ! 今すぐやれ!」と表面上は叱ってお尻を叩きましたが、“こいつも成長したなあ”と嬉しく思ったものでした。
「うちは社員が育たない」などと嘆いている社長は、今一度ご自身の言動を振り返って、発想を変えてみてください。きっといい影響がありますよ。
第11回 優秀なセールスマン、夢、予算

執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp