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ノウハウ 小山昇の「再定義からはじめる仕事術」第10回 マイナス、無借金、名簿、もったいない 小山昇の「再定義からはじめる仕事術」 株式会社武蔵野 代表取締役社長

ノウハウ

第10回 マイナス、無借金、名簿、もったいない

 
 
こんにちは、小山昇です。我が武蔵野の経営用語集『増補改訂版 仕事ができる人の心得』からお送りするこの連載もいよいよ佳境に入ってきました。皆さんの会社でも、そろそろ言葉の見直しが浸透して社内の雰囲気が変わってきた頃ではないかと思います。残すところあと3回。今月は【ま行】の解説です。さあ、さっそく始めましょう。
 
―ま行―
 
*マイナス(通番1233)
楽な仕事をすることです。成長するには、鍛える時期が必要で、それが力を養う源になる。若い時は、仕事の時間が長いほうが成長が速い。
 
解説: 電通の一件が問題になっているというのに、小山は長時間労働を奨励するのか、と危ぶむ方がおられるかもしれませんね。ご安心ください。そうではありません。
 
若い人が仕事を早く覚えるためには、あれやこれやといろんな業務に手を出さないほうがいい。数少ない業務を、狭く、深く掘り下げるべきです。だって、1日の労働時間は8時間しかないのだから。すると、1つの仕事に取り組む時間が長くなりますね。「仕事の時間が長いほうが成長が速い」とはそういう意味です。
 
考えてもみてください。小学校1年で野球を習い、2年はバスケ、3年は陸上、サッカー、水泳ときて、最後の6年ではハンドボール。こんな習い方をしてどれか1つでも上手くなれますか? それよりも、サッカーならサッカーをずっと練習し続けたほうが上達します。
 
だから武蔵野も、社員1人の業務範囲は広げすぎないようにしています。わかりやすい例は社内全員で行う環境整備です。見学会にいらっしゃったら驚きますよ。一人ひとりに割り当てる範囲は「えっ、これだけ?」と思うぐらい小さいですから。ただし、担当分は徹底的にキレイにさせます。人間は浅く広くやるほうが楽な生き物です。それでは習熟も達成もありません。ただの時間の浪費。それこそマイナスです。
 
 
*無借金(通番1278)
無手形は正しいが、無借金は間違いです。5年間で売り上げを倍増しようとする会社は、借り増しが基本です。可能性のキャパシティを広げることが大切です。なぜ金利を支払ってまで借りるかというと、将来のためだからです。今使わなくても、将来使うだろうから、その時のために借り入れ枠を広げる努力をしておかなければなりません。無借金にするとベンチャー精神が失われ、社内の活力が急速に失われていく。 
 
解説: 中小零細企業の社長が無借金経営に憧れる気持ちはよくわかります。いいですよね、無借金。憧れますよねえ、無借金。
 
昔、武蔵野の経営サポートパートナー会員でこんな例がありました。複数の店舗を経営する社長が勝負に出て、駅前の一等地に自社ビルを建てました。多額の借金を背負いましたから、早く返済して楽になりたい一心で、しゃにむに頑張って利益を出し、念願叶って無借金の身になりました。途端に業績が下がり、赤字になった。社長に会って直接話を聞いても、これといって要因が見つかりません。特に変わった点がないのです。1つだけ、以前はあったバイタリティが彼から感じられなくなっていたことを除いては――。
 
 
*名簿(通番1290)
常にメンテナンスをしないものはゴミと同じです。業績を上げるための命です。どのようなつくり方にするかで、業績が変わってきます。
 
解説: A、ダスキン商品を武蔵野から買ってくださっている企業様。B、ライバル会社から買っている企業様。C、ダスキンを使ったことがない企業様。この3パターンがあるとき、どの企業様の名簿が一番有用だと思いますか?
 
こう聞くと、大抵の方が「使ったことがない企業様の名簿」と答えます。違います。答えはB、ライバル会社から買っている企業様の名簿です。
 
説明しましょう。あなたは靴メーカーの社員です。ある日アフリカに転勤になりました。仕事は靴の売り込みです。未開拓の広大なマーケットを前に意気軒昂、頑張りましたが、何年経っても売れ行きが伸びません。あなたは毎日悩んでいます。「なぜだ! 靴を履いていない人たちがこんなにいるのに!」――と。
 
もうおわかりですね。何年も靴なしの生活をしてきた彼らはこれからも靴を履くようにはならない。商品は今現在その商品を使っている人に売れるのです。つまり、良い名簿とは、ライバル会社のお客様の買い替えの時期がわかる名簿です。
 
商売のキモはターゲットを間違わないことです。私は一般のビジネスマンに向けた本は書きません。出版社は不満でしょうが、今時、お金を出してまで1年に何冊も本を買って読む人がどれだけいますか。その点、私の本は全部社長向けで、社長が喜んで買ってくれます。経費で本代が落とせますからね(笑)。
 
要は、いい本だから売れるんじゃない。売れる本がいい本なのです。それと同じで、いい名簿が業績を伸ばさせるのではなく、業績を伸ばさせる名簿がいい名簿なのです。そのつもりで名簿づくりを工夫してくださいね。
 
 
*もったいない(通番1305)
会社では一番の罪悪です。家庭生活では一番の美徳です。買って使わないのはもっともったいない。
 
解説: 会社の備品でiPhoneをお使いの方にお聞きします。最新型は「7」ですよね。7と初代ではどちらの動作が速いか。7ですよね。では、物を大切にして初代iPhoneを使っているAさんと、古い型は棄てて常に最新型を使っているBさん。どちらの仕事が速いでしょうか。また、同じ通信量を使った時のパケット代が安いのはどちらでしょうか。
 
もちろん、正解はいずれもBさんです。もったいないと思って昔の備品を使い続けたところで、仕事は遅いわコストはかかるわで、いいことはありません。備品を与える社長にしたら、そっちのほうがよっぽどもったいない。武蔵野は他社がまだiPadを導入する前から現場に500台入れていました。それ以来、いつ・どこでも仕事ができるようになり、生産性が上がりました。今年の春も古い型のものを処分して全部新しい型に切り替えましたよ。
 
おもしろいのがですね・・・、出先から帰って会社で仕事を片付けていた頃に比べて、残業手当の申請が減ったことです。あくまで私の推測で真偽のほどはわかりません。でも、居酒屋で仕事をした分の残業手当はさすがに申請しにくいんでしょうね。さらにその上の強者になると、iPadに自分で200円とか300円とかの有料アプリを入れて、なんだか楽しそうなものを見たり、スタンプで遊んだりしているらしい(笑)。端末が最新型になるとそういった不思議な現象も一緒についてきますが、その程度のことで社員の仕事の効率が上がるなら大いに結構。いい備品を与えると「神様、仏様、社長様」となって社内の人望も上がります。まさに一石二鳥です。皆さんもぜひ試してみてください。
 
 
 
 
小山昇の「再定義からはじめる仕事術」
第10回 マイナス、無借金、名簿、もったいない
 
 
 
 

 執筆者プロフィール  

小山昇 Noboru Koyama

株式会社武蔵野 代表取締役社長

 経 歴  

1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。

 オフィシャルホームページ 

   http://koyamanoboru.jp
 
 
 
(2016.12.7)

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