第8回 ナンバー・ツー、抜き打ちチェック、根回し
皆さんこんにちは。小山昇です。社内で当たり前に通用している言葉の定義を、武蔵野の経営用語集『増補改訂版 仕事ができる人の心得』に照らしながら見直してみようというこの連載。まだ見直しを始めていない方に前回、私の座右の銘「いつかいつかと思うなら今!」を献上しました。・・・あれから始めましたか? 始めましたね? は・じ・め・ましたね? よろしい。では今月は【な行】に入ります。しっかりマスターするように!
―な行―
*ナンバー・ツー(通番1047)
①身内は甘くなる。鬼のように厳しすぎるくらいがよい。②組織の実力はナンバー・ツーの実力に正比例する。
解説: この「身内」は親戚という意味の身内です。親戚に甘くなるのは当たり前です。例えば父親が創業者で、3年前に長男に会社を譲ったとします。次男が大学を卒業する年になり、父親は「お前もうちに入れ」と次男に言います。長男は親の贔屓目を抜きにしてもなかなか優秀です。次男はさほどでもありませんが、親としては、次男も専務あたりに収まって兄弟で一緒に会社をもり立ててくれたら、これはもう、親冥利に尽きる。
しかし、気持ちはわかりますが、これはダメです。経営がなあなあになるからというだけでなく、社員が夢を持てなくなるからです。事実はどうでも、社員は社長の身内を抜いて出世できるとは考えないものです。それで社員の心を折ってしまっては何にもならない。武蔵野をご覧なさい。社員に私の身内は一人もいません。
組織の実力がナンバー・ツーの実力に比例する理由は、人間はレベルが自分と近い人を信用するからです。社長である自分のほうが、部長連中より経験が豊富で仕事もできる――、いざとなれば自分が一番説得力がある――とか、そう思っていませんか? 違います。一般のヒラ社員は社長よりも部長、部長よりも課長、課長よりも、1年先輩の係長の言っていることを信用します。あなたが社長なら、組織にあなたの考えがどう浸透するかはナンバー・ツーである部長が、課長以下一般社員にどう伝えるか次第。くれぐれも、ツーの人選はお間違いなく。
*抜き打ちチェック(通番1070)
効果がない。反感を買うだけです。事前に点検日などを発表しておくのが正しい。たとえその日だけでもキチンとやればレベルが上がる。
解説: 普段の仕事ぶりは抜き打ちチェックによってしか確かめられないと思っていませんか? 逆です。抜き打ちこそ、何もチェックできません。どういうことか。
私はいろんなメディアの取材を受けます。インタビューを終えたライターが当日すぐ原稿執筆にとりかかるか。かかりません。今日やったほうが1週間後にやるより記憶が新鮮なのに、やらない。責めているわけではありませんよ。人間が自分に負荷のかかることをするのは期限があるからです。締め切りが来るからしぶしぶやる。10月末が締め切りなら、早くて29日、遅ければ31日深夜に徹夜で片付けて、翌1日朝にギリチョンで納品。それが普通なのです。強者になると「ギリギリのあの緊張感がたまらない」などと、半ば好んでそうしているふしさえ見える(笑)。
抜き打ちでチェックしに行って、見たい仕事を社員がまだやっていなかったら無駄足です。あまつさえ「なんでまだやってないんだ!」と怒るのは筋違いもいいところ。社員は社長や上司の自己満足のために仕事をしているのではありませんからね。
ここまで話すと、「わかった、伝えた点検日の前日にチェックするといいんですね」と言う人がいますが、それだとただの騙し討ちです。そんな小手先の知恵を働かすより、点検日が必ずあり、「その日は確実に厳しく点検され、絶対にごまかせない」という意識を、社員の中で既成事実にさせましょう。
*根回し(通番1080)
順番が最も重要です。一番うるさい人からやっていかないと効果がなく、めちゃくちゃになる。
解説: これは意外に思い違いをしている人が多いようです。一番うるさい人ほど外堀を埋めてから、つまり他の全員の賛同を得てから首をタテに振らせに行くべきだと思っている。それは大きな間違いです。
想像してみてください。例えば親戚づきあいです。皆さんの親戚にも1人や2人、何かと自分の意見を通したがる、うるさい人がいますでしょう(笑)。親戚が20人いて、うち1人のおじさんがキーマンとします。19人を1人ずつ説得して回り、全員OKになったらそのおじさんもOKするか、しませんよね。だって、そういう人こそ、他人の意思がどうであるかと自分の意思とは関係がないのですから、他の全員がOKということに何らかの効力があると思い込むのはこちらの都合、もっと言えば自己満足です。
しかも、そのおじさんがキーマン=親分ということは、おじさんがNOと言えば残り19人も「やっぱ俺もNOかも」「そうだそうだ、NOだ!」「最初からNOな気がしてたんだよな~」みたいに言い出します。親分だから倉庫の裏に呼び出して「おい、お前、あの件OKしたらしいな。違うだろ。NOだろうが」とかやられちゃいます。すると「そ、そうですね~。そうかな~とも思ってたんですよねぇ。やっぱNOですね!!」みたいにひっくり返される。ふざけんなって思うでしょ? でも真理です。
19人は選挙でいうところの日和見票です。雲行きが優勢なほうに「わーっ」となびきます。そんな人たちに時間と労力をかけるより、一番うるさい――つまりは自分の意見があり、全体の雲行きを左右できる人を真っ先に落とすべきです。
また、人間心理を考えてもそのほうがいい。キーマンは往々にしてキーマンの自負があります。だから自分を飛ばして先に大勢を決められてしまったら、「このやろう」と思ってひっくり返したくもなる。結果的に、キーマンならではの正しい判断力まで阻害してしまう。それは組織にとって損失です。根回しは順番が最も重要。覚えておいてください。
第8回 ナンバー・ツー、抜き打ちチェック、根回し

執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp