第7回 ついで、提案、撤退、度胸
こんにちは、小山昇です。武蔵野の経営用語集『増補改訂版 仕事ができる人の心得』からお送りするこのコラム、今月から後半に入ります。一緒に社内の言葉の再定義ができるのもあと6回ですよ! 「そのうちやるから・・・」とまだ着手していない方には私の座右の銘を献上しましょう。「いつかいつかと思うなら今!」――はい、ではさっそく、【た行】の続きから!
*ついで(通番0951)
誠意が伝わらない。使った時間、お金が生きない。
解説: よくいますねえ。これから商談に出る部下をつかまえて、「おう、今日は山田社長のとこだったな。ついでに山川社長と山園社長のとこも回ってこい。ご機嫌うかがいしてこい」みたいな指示を出す上司。部下のA君は「はい」と答えたものの、なんとなくしっくりこないまま大事な商談の現場に向かう・・・。
何につけても効率、効率、とうるさいご時世では、「ついで」は積極的に評価されます。「生産的」という意味で捉える向きすらあります。しかし、言っておきますと「ついで」では心は通じません。使う時間、お金、ともに無駄。大事な商談とご機嫌うかがいを同列に扱われたA君もかわいそうです。
「ついでかどうかなんて相手先はわからない」ですって? その時はわからなくても、後からわかるものです。第一、ついでかどうかは自分が一番よく知っています。山川社長に「遠いのにわざわざ、ありがとう」なんて感謝された日には申し訳ない気にさえなる。正直に「いえ、ついでですから」と言えば“なんだ、ついでか・・・”と思われ、「他ならぬ山川社長ですから!」みたいに嘘をつけば、そのことがずーっと胸のあたりに引っかかる。誠意と効率を両立しようという発想がどだい無理なのです。
*提案(通番0963)
ヒアリングが基本です。よくなったところ、悪くなったところを明記する。二者択一にする。
解説: 二者択一にする理由から話しましょう。五択と二択、選びやすいのはどっちですか? 引き寄せるべきゴールは、お客様に検討していただくことと、契約してもらうことのどっちですか? もしかして、たくさん提案して差し上げたほうが誠意も伝わると思っていませんか? それよりも大事なのは、選びやすいようにしてあげることです。選択肢が少ないほうがお客様は意思決定がしやすい。
そしてヒアリング。武蔵野の経営サポート事業本部の業績がいいのは、ヒアリング中心だからです。他のコンサル会社は説明が中心です。でも、説明は優秀な人がやるのとそうでない人がやるので差が出ます。精度が落ちるわけです。
武蔵野はお客様にまず経営サポートの紹介映像をi padで見せます。その時に、よく見ているとお客様によって反応するテーマが違います。環境整備に反応する人、社員教育に反応する人。それを観察しておいて、いざ説明となったらそのテーマの話をします。「お客様が反応したテーマ以外の話をごちゃごちゃしない」という原則を決めているのです。
特に、勉強したくないと思っていることをいくら教えてもダメ。本当に学びたいテーマの魅力が薄まるだけです。お客様は暇じゃないんです。困っていることにズバッと応えてくれたほうがありがたいに決まっている。こちらもそのほうが少ない餌で済みます(笑)。
二者択一にするのもヒアリング中心にするのも具体的な結果を目指しているから。他のコンサル業者さんを見ていると、意外にそれがないんですね。「良い提案をして喜んでもらう」ぐらいのことしかイメージしていない。それは単なる自己満足です。
*撤退(通番0983)
時間をかけて少しずつ引く。一度に引いてはいけない。積極的な働きかけをしない。資金を投入すればするほど引き際が難しくなり、時がたてば泥沼に引きずり込まれ、命取りになる。
解説: 営業マンの鉄則に「謝罪迅速」というものがあります。それと同じで経営者も、引き際を感じたら「撤退迅速」が鉄則でしょうか。
違います。私が1991年に武蔵野の社長になった時にクリエイトという子会社があり、ここを畳むことになりました。社員は200人以上。単に「会社を畳むから」で迅速撤退したら社内が火を吹きますよ。考えるだけで恐ろしい。
それでどうしたか。営業所の合併・統合を進めました。A支店とB支店を統合するので皆さんB支店に配転です、C支店とD支店を統合するのでみんなD支店に来てください。そういうふうにすると、統合のたびに半分ずつ人が退職していきました。最後に本社異動まで残ってくれたのは3人でしたね。
撤退には解雇が伴います。解雇と退職では意味合いがまったく違う。社員だって生活がかかっているんだから、いきなり解雇するわけにはいかないのです。
こう話すと「社員に対する責任感が違いますね」なんて、とんちんかんなことを言う人がいます。違います! 嫌な思いをしたことがあるかないかの違いです。責任がどうこうなんてキレイごとですよ。だいたい、撤退戦をやった経験がない社長やコンサルタントほど、安易に「撤退迅速」なんてことを言うんです。従業員をクビにする気持ち、一生怨まれる気持ちがどんなものか、彼らは知らないのです。
武蔵野の経営サポートは600社以上を指導しており、攻めも撤退戦も教えています。私自身が両方とも嫌というほど経験していますからね。もし今、撤退戦に迫られている方がいれば、ぜひいらっしゃってください。
*度胸(通番1013)
キツイことをどんどんやると気が強くなり、恥ずかしいことをやるとものおじしなくなる。
解説: 私も昔は気が弱かった。本当です。自分の経験でいうと、金銭で損したくない思いが先に立つと気が弱くなります。いっぽうで、ものおじする、しないは経験値の差。ものおじしないことはどの職位・職責の人にも求められます。気が強いことはトップに近い人には必須の要素です。
わかっていてほしいのは、度胸という意味の気の強さもありますが、気持ちの強さという意味でも気が強くないと経営者は務まらないということです。売り込み競争でライバル会社に負けたらはらわたが煮えくり返るぐらいでないとダメ。私は「訴えられたってなんだっていいから、あっちの営業マンに会ったらぶん殴ってこい!」と社員に檄を飛ばしたことがあります。その時は「普通は社長がそういう社員を止めるんですよ」といさめられましたが、それぐらいでないとトップは張れない。今もこの信念は変わりません。
第7回 ついで、提案、撤退、度胸

執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp