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ノウハウ 小山昇の「再定義からはじめる仕事術」 第6回 対前年比、着手半分、忠誠心、朝令暮改 小山昇の「再定義からはじめる仕事術」 株式会社武蔵野 代表取締役社長

ノウハウ

第6回 対前年比、着手半分、忠誠心、朝令暮改

 
 
皆さんこんにちは。小山昇です。武蔵野の経営用語集『増補改訂版 仕事ができる人の心得』からお送りするこのコラム、第6回まで来ました。半年続けたらさすがにもう、皆さんの会社でも言葉の再定義が進んだのではないでしょうか。少なくとも、「この捉え方は生産的かな?」といっぺん自問自答する癖が芽生えてきていると思います。ぜひその調子で行きましょう。ではさっそく、【た行】です。
 

―た行―

 
*対前年比(通番0874)
対前年比という考え方は危険です。業界の伸びに対して、わが社の伸びはどうかということが大切です。
 
解説: 「成分量20%UP!(社内比)」なんてコピーがよくありますね。対前年比はあれと同じです。大事なことなので何回でも言いますよ。経営で一番大切なのは率じゃない。額です。年間売上高10億円のA社が20億円売り上げたら対前年比200%。100億のB社は150億売り上げても対前年比150%。でも、偉いのは50億円上積みしたB社のほう。対前年「額」で見るべきなのです。これが経営の真理です。
 
あなたが経営者でなければ、例えば賞与です。「うちの会社、5ヶ月分も出るんだぜ!」って聞いて額を見たら65万円、なんていうのより、2ヶ月だけど100万円のほうがいいに決まってます。求人情報は賞与欄の書き方を注意して見てくださいね。
 
もう1つの基準は業界内での地位です。自社が対前年比でいくら成長していても競合他社の伸びがそれを上回っていたら埋もれてしまいます。「額」は絶対的な基準ですが、業界内での地位はどうやったって相対的です。とはいえ、他社がコケるのを待っていても始まりません。対前年「額」でいくら上積みするか。目標の立て方は前々回の「実現可能な数字」の項にありますから、ご参考に・・・。
 
 
 
*着手半分(通番0928)
物事に実際に着手したら、半分(5割)はでき上がったも同然です。あれこれ考えるだけで、なかなか手がけない人も多い。着手すべき点を早く見つけ、まずはとりかかることが大事です。イヤな思いをしたことがない人はやらない。
 
解説: あなたのスキルが今「5」あるとします。もともと意欲的なあなたは、スキルアップのために何か始めようと思い、1日考えました。でも、これといったアイデアが出ません。1週間考えました。いくつか思いつきましたがどれもイマイチです。1ヶ月考えました。いいアイデアも出ましたが、決め手に欠けます。半年考えた頃、小山に聞かれました。「どうだ、スキル上がったか?」――そのとき初めて、無駄な時間を過ごしていたことに気付く。スキルは1㎜も上がっていませんでした。
 
これは頭がいい人が陥る典型的な罠です。「もっといい方法がないか」と考えることは大事ですよ。でも、それは物事に着手してから意識すべきことで、何も始まっていないゼロの状態にいくらレバレッジをかけても結果はゼロです。
 
では、なぜその人はいつまでたっても着手しないのか。イヤな思いをした経験が少ないからです。企画段階では威勢がいいのに、いざ実践となるとチマチマと問題点をあげて計画を頓挫させるタイプの人は、考えすぎというよりも、失敗や不本意な状態への免疫が弱いんですね。女性にフラレた経験が少ない男ほど自分からは告白しないのと一緒です。逆に言えば、告白すれば半分は落とせたも同然・・・かどうかは一概には保証しかねますが、こと仕事に関しては、着手すれば半分はでき上がったようなものです。安心して取りかかってください。
 
 
 
*忠誠心(通番0932)
会社の業績が悪い時でも従業員を守らないと育ってこない。
 
解説: これは勘違いしている経営者が意外に多い。彼らは「会社の業績が悪い時に頑張る社員こそ忠誠心がある」と考えています。でも、正しくは「業績が悪くても社員に良くしてあげるから忠誠心が育つ」のです。
 
忠誠心は頑張りの他、離職率にも表れます。武蔵野の離職率が低いのは給料が良くて賞与が良いから。さらに、家族手当が厚いからです。子どもが3人いたら家族手当が5万円出ます。手取りが5万違ってきてみなさい、仮に亭主は武蔵野から逃げたくても、奥さんが逃げさせませんから。「あんた、何言ってんの! 我慢して働きなさい!」という具合に。
 
いずれにしても、安定的に給料が上がることが社員の忠誠心の第一条件です。順序を間違えてはいけない。ギブアンドテイクはテイクアンドギブとは言いませんよね?
 
 
 
*朝令暮改(通番0947)
方針がコロコロと変わることです。変化に対応して生き抜くには、これしかありません。
 
解説: 皆さんは車の免許はお持ちですか? ある。はい、よろしい。道を走っていて歩行者が飛び出してきたらブレーキを踏みますよね。でないと大惨事になりますものね。車を運転するということは朝令暮改の繰り返し。経営も車の運転と同じです。社員は「なんで止まるんですか~」とか「右に行くっていったじゃないですか!」とか後ろの席から好き放題言いますが、運転席の社長が朝令暮改じゃなかったら全員死んじゃいますよ。
 
社長や上司の朝令暮改は会社の業績を伸ばして部下の給料をあげるためです。大いによろしい。どんどん朝令暮改してください。
 
「ただ、企業のトップとしては、それによって部下や取引先の信用をなくす懸念もあるのでは?」――ごもっともです。しかし、ですよ。決定を守っていて会社がつぶれたら信用も何もないじゃないですか。私も断腸の思いで朝の決定を暮に改めることがあります。これを変えたら社員に総スカン食らうなとわかっていても変えます。社員全員から良く思われようと思っていたら社長は務まりません。最も危険の伴う、最も社員に嫌われる決定を下すのが社長の責任なのです。
 
私は先代社長から武蔵野を継ぐとき、会社の株を自分の子会社に目一杯売りました。社員は「小山さんずるい」なんて言っていました。だけど私はいちいち説明しませんでした。今、その株価はとんでもない値段になっています。もし私がぽっくり逝ったら社員は誰も株を買えず、どこかの投資ファンドが会社をさらっていってしまうでしょう。でも、武蔵野の大株主はその子会社です。つまり資本と経営の分離が完成しているから、私に何かあっても会社はそのままです。最近は当時「ずるい」と言っていた社員が「小山さんは先見性があった」と言っている。まったく(笑)。  



小山昇の「再定義からはじめる仕事術」
第6回 対前年比、着手半分、忠誠心、朝令暮改




 

 執筆者プロフィール  

小山昇 Noboru Koyama

株式会社武蔵野 代表取締役社長

 経 歴  

1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。

 オフィシャルホームページ 

   http://koyamanoboru.jp
 
 
(2016.8.3)

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