こんにちは、小山です。いよいよ本格的な夏到来ですね。これから先、夏バテをしないように、しっかり食べて、景気よく夏を乗り越えたいものです。さて、景気といえば政府の経済政策が功を奏したのか、それとも企業の皆さんの努力によるものなのか、経済動向は弱々しくも上向いているようです。そんな中、これからしばらくは消費税を10%に上げることへの論争が熱を帯びてくるはず。今回は消費税と企業努力との関係を考えてみましょう。
【相談ケース63】 消費税の内税は自らを傷つける
いつも楽しく読ませていただいています。私は創作和食レストランを起業して間もないのですが、ひとつ悩んでいます。昨年の4月からから利益が減少しているのです。ちょうど消費税が5%から8%になったタイミングです。当時、お客様のことを考えて値段を据え置きにし、内税扱いにしました。消費税が原因なのか、サービスに原因があるのか。素材はしっかりしたものを使っているので商品の料理には自信があります。理由がわからず悩んでいます。(34歳 経営者・女性)
経営者は顧客心理を考えよ
答えは明確ですね。内税にしたことが間違いでした。私は8%に増税される際、経営サポート事業部でサポートしている企業の全てに、外税にするよう指導しました。それから1年と少々経過して、今、その結果がはっきり出てきています。指導どおり外税にした企業は、程度の大小はあれど成長が続いています。しかし内税にした企業は軒並み業績を下げました。これが真実です。ですので、今すぐ外税に切り替えることをお勧めします。
業績が下がるメカニズムは明白ですね。同じ値段で税金を含めると、利益を喰ってしまいます。単価内の利益が目減りするので、同じ労力やサービスでも売り上げが減るのは当たり前でしょう。
内税にするか外税でいいか。お客様の心理を考えれば判断は簡単なんですよ。震災の時、外食産業は被災地以外でも大きなダメージを受けました。自粛の空気が世の中に蔓延したからです。「被災地が大変なことになっているのに、自分たちは楽しく飲み食いしていていいのか」――そう思う気持ちもわかりますが、世の中には全て「裏」が存在します。あの時、軒並み客足が去った飲食ないし娯楽産業の中で唯一、空前絶後の売り上げを記録した産業があります。カラオケボックスです。そう、部屋の中が周囲から見えないので、“我慢できないお客様”がこぞって集まったわけです。あの時、どうしても歌いたくてカラオケボックスに集まった人たちが、消費税が内税か外税かなんて気にしていたか? していないですよね。つまり、良い悪いの話ではなく、そういった人間心理から目を背けて商売はできないということを言いたいのです。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
りんごが50円から55円になったところで、最初は高いと思うかもしれませんが、すぐにそれに慣れます。3ヶ月もあれば、55円がスタンダードな価格として疑いを持たなくなってしまう。それが人間の心理なのです。つまり今目の前の群集心理に目を向けるのではなく、あくまで顧客個人の長期間の心理変化を考えなければいけません。消費税によって値段が上がっても、トータルでは最終的に売り上げに大きな影響はない。ならば、経営的には、内税にするのは賢い策とは言えません。
【相談ケース64】 企業努力は消費者のためだけのもの?
小山さん、こんにちは。私はペット向けのグッズをつくる非上場企業の社長をしています。ふと思ったのですが、小山社長は「企業努力」というものについてどうお考えですか? 私は商品を扱ってくれる中間業者も含めて、弊社に関わる全ての人たちが幸せになれるような努力こそが企業努力だと思っています。しかし、経営者仲間に言わせると、私の考えはいかにも甘いそうです。そう言われても釈然としないのですが、小山さんの意見を聞かせてください。(55歳 経営者・男性)
社員や中間業者も幸せになれる商売を
素晴らしいお考えではないでしょうか。「上場企業は株主に向き合い、非上場企業は顧客に向き合う」などと言われますが、企業はお客様だけを向いてしまっては伸びないと私は考えています。やはり、自社の社員や中間業者の方々に潤いがもたらされなければ、企業として活動する意味がありません。
消費税の増税や原材料の高騰など、きっかけは様々ですが、商品を値上げする時期はいつかやってくるものです。その際、多くの企業は「企業努力」と称して、消費者のメリットを優先します。今の値段を変えず、原価や粗利を減らすことで、「お客様の懐に影響を与えないようにしよう。そうすることで評判が維持できる」と考えるわけです。これは、本当に甘すぎる考え方です。
商品がお客様に届くまで、かならず何人かの手を経由します。日々QCに目を光らせる品質管理部。商品を卸業者に売り込む営業マン。中間業者にだって、「この商品を扱うと儲かる」と思ってもらえなければ扱ってもらえません。そういう「中間に立っている人たち」の幸せを無視した企業努力は、エンドユーザーへの単なる媚び。私が常々言う「お客様のために」の「お客様」は、エンドユーザーに限りません。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
人間は、自分の利益を食いつぶされている中では真価を発揮してくれません。給料を払わなければ社員は働きません。中間業者のマージンを減らせば、業者はもっとマージンがとれる企業と付き合うようになるに決まっています。消費税が10%になれば今以上に自社の商品の価値が問われるようになるでしょう。その時の「価値」は、ユーザーも含め、あらゆるステークホルダーにとっての「価値」である必要があります。
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増税を震災などの天災と軽々にからめるべきでないのは承知のうえで、あくまで人間心理を説明できる例として触れさせていただきました。消費税が上がるのは行政のすることで、仕方がありません。それでも企業、顧客、消費者の誰も血を流すことなく、満足度を維持するためにどうするか。それはやはり、「良い商品なら売れる」という考えではなく、「売れる(扱ってもらえる)商品が良い商品である」という原点に返ることではないでしょうか。
明るい我らに仕事あり ~お悩みビジネスパーソンの駆け込み寺~
vol.32 消費税と企業努力の因果関係
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp
(2015.7.1)