こんにちは、小山です。初夏の日差しがだんだんと本格的になってきましたね。昔から6月はジューンブライドといい、この季節に結婚式を挙げると幸せになるとされます。結婚すると2人は互いを支えあう人生のパートナーになるわけですが、企業にもお互いに支えあっていく存在がいます。株主です。「株」というものは企業にとって幸にも不幸にも転がるもの。そこで今回は、株ならびに株主と、うまく付き合う方法を考えてみましょう。
【相談ケース61】 非上場企業株の譲渡の原則
小山社長、いつも楽しく拝読しています。私は非上場ではありますが、一企業を率いる者です。今では息子や娘が会社を仕切れるほどになってきたので、そろそろ子どもたちに譲ることを考えています。ですが、先日の某企業のお家騒動を見ていても、下手な譲り方をしたら、かえって子どもたちの兄弟姉妹仲を壊してしまいかねないと危惧しています。小山社長は、まだまだ現役でいらっしゃると思いますが、会社を譲る準備などはどうなさっていますか?(64歳 経営者・男性)
株の分散譲渡はご法度
まず質問に答える前に、読者のために非上場の株が会社にどういう影響を与えるかをお話ししておきましょう。上場と違って、非上場企業には2つの椅子があります。1つは社長の椅子、もう1つはオーナーの椅子です。権限を持っているのは、オーナーのほう。会社の株式の67%以上、つまり3分の2以上を保有していれば、会社にとっての重要事項を決める決定権があることになるので、オーナーが最上位なのです。もっとも多くの企業はオーナーと社長が同一人物であることが多く、株式会社武蔵野の場合も、私が85%の株式を保有しているため、オーナーであり社長という形になります。
問題はこの株式を譲渡する際に、どのように譲渡するかということです。特に家族・親族に譲渡する場合、よくやりがちなのが、均等に株を譲渡するという失敗。例えば子どもが3人いたら、3分の1ずつ渡すやり方です。これは一見、平等なように見えますが、実は将来的に骨肉の争いを招く可能性があります。兄弟姉妹の間で均等に株式を保有していたら、社長以外の2人、例えば弟と妹さえ結託すれば、簡単に長男を社長の座から降ろせてしまう。このような身内騒動になると経営どころではありません。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
非上場企業が将来的な経営安定を願うならば、株式は必ず1人に集中させて、相続では全てを譲渡すべきです。社長が単独で他を寄せ付けない株数を保有し、不毛な争いは起こしたくても起こせないようにしておくのです。古来から日本は嫡子相続制です。これを古びた考えと捉える向きはあるでしょうが、実は後に禍根を残さない、合理的な方法なのです。継承する人には株を全部渡し、他の人に渡すのは“お金”。これが正しい家族間継承のやり方です。
【相談ケース62】 自社の株を巡る動きが不穏です
小山社長、初めてのお便りになります。私は、上場企業に勤めているのですが、自分が株式投資で資産運用をしていることもあり、自社の株の動きには敏感になっています。弊社の株主総会はいつも紛糾すると話を聞いていて、また経営陣も同族経営なのに何かしら対立していて、キナくさい雰囲気が漂っています。私はこの会社が好きなので、長く勤めたいのですが、なんだか不安です・・・。(35歳 会社員・女性)
社員はまずお客様のほうを向け
ご不安はよくわかります。ただし、そこは社員が気にしてはいけないところです。経営陣も社員も、株主のことばかり気にしている経営状態というのは不健全です。こと株主の立場で言っても、会社がお客様に向いていないということは、結局自分たちが損をすることになるので、誰にとっても得なことは何一つないのです。そこは経営者が、社内の目線を、株主ではなくお客様に向けられるようコントロールする必要があります。
これは一社員がどうこうできる問題ではありませんが、上場企業の場合、株主が幼稚だと、困った問題が起きやすい。実際に、私が以前株主になっていた某企業の例をお話ししましょう。
株主総会に参加した際、ある株主が、くだらない質問をしていたわけです。その質問に右往左往して総会は遅々として進まない。原因は社長の煮え切らないヴィジョン説明にありました。そこで私が挙手して、こう言ってみたのです。「社長、さきほど質問をされた方にも一理ないとは言えません。でも、大事なのは、社長が今後どうしていきたいかじゃないですか。指針をはっきり示されたほうがいい。はっきりしないからこんな質問をされるんですよ」。
それがきっかけで議事がどんどん進み、開催時間の最短記録を塗り替えました。つまり、出された指針に納得するかどうか、そこだけに論点を集中させた。いわゆる“大人の株主”がそれに賛同した結果、総会屋もどきを排することができ、事なきを得たのです。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
株主のほうを見ておくのは経営者だけでいいんです。どうしても不安なら、株主が大人かどうかを見極めれば一定の判断はできます。幼稚で会社を育てるつもりがない株主が圧倒的な割合を占めていれば、経営陣は株主対策だけで消耗してしまって、明瞭な指針も出せません。その時はその会社に未来はないでしょう。転職を決めるきっかけにもなるのではないでしょうか。ただし、どの会社に行っても、社員であるあなたはお客様のために動いていなければ、最終的に株主からの評価を下げてしまいますよ。
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株式というのは、経営者や投資家のように、直接的にそこに関わっていなければ遠い要素です。ただし、会社が株式をうまく使っているかどうか、信頼のおける株主と付き合っているかどうかというのは、身の振り方を定める指標にもなりえます。また、経営者ならば、社員からそういう目で見られていると自覚する必要があるでしょう。株主と株式会社は切っても切り離せない関係だけに、ジューンブライドのこの時期、改めて株式・株主と会社の理想の関係を考えてみるのも悪くないですね。
明るい我らに仕事あり ~お悩みビジネスパーソンの駆け込み寺~
vol.31 株式・株主と会社の理想的な関係
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp
(2015.6.3)