こんにちは、小山です。多くの会社が3月末に年度末を控え、4月からの新年度に向けて準備を進めていると思います。私は何人もの社長さんやビジネスパーソンとお話をさせていただく機会がありますが、最近、部下や後継者の育て方に頭を痛めている人がとても多い。その要因は社員のストレス耐性のなさにあります。一昔前までは、上司が厳しくハッパをかけて奮い立たせていましたが、今は方法論が違います。部下や後継者をどう育てるか。今回はそのテーマで質問にお答えしましょう。
【相談ケース53】部下に責任感を持たせたい
初めまして、小山社長。私は数名の部下を持っている管理職なのですが、最近、どうにも部下に責任感がないように思えます。社員として会社のために動くという自覚が感じられないのです。どうすれば彼らに高い意識を持たせられるのか、アドバイスをお願いいたします。(44歳 会社員・男性)
ストレスを忌避する現代社員の扱い方
あなたの求める「責任」と彼らの中にある「責任」の定義が全く違うのではないでしょうか。あなたは、上司に言われなくても率先して会社のために汗をかく精神のことを言っているのでしょう。しかしあなたの部下は、与えられた仕事をこなすことが責任だと解釈しているのではないでしょうか。
これは、ここ数年、若手社員と中堅社員の間にとても多く見られる思考構造のギャップです。原因は、若手社員の親たちが、端的に言えば甘やかした教育をしてしまったことが原因です。だから彼らは、ストレスそのものを忌避する傾向が今までの世代より強い。特に2015年度の内定者から圧倒的にストレス耐性が弱まっています。
たとえば就職するにしても、今は自分で会社を選ぶ人のほうが少ないです。多くは、自分はどこへ行ったらいいかと就職コンサル会社に相談し、紹介された会社を受けるようです。つまり、「自分で物事を決めるとストレスがかかるから、誰かに決めてほしい」という心理が根底にあるんですね。
こうも思考フローが違う世代をどう指導していくか? 難しいですが、まず「この件をあなたに任せたい。結果を出すためには、ABCの3つのやり方がある。あなたはどのやり方でやりたい?」と聞きましょう。そして彼らが選んだやり方でやらせる。つまり、ゼロから「この件を任せる。裁量も持たせるから、やり方は自分で考えろ」ではなく、いくつかやり方を示し、「この中から選んでごらん」とアプローチするのです。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
この問題は時代的と言いましょうか、世代的な考え方の違いが背景にありますので、社員教育でどうこうできる問題ではないでしょう。大事なのは、彼らの世代は自分で考えたり判断したりを“放棄”していることを織り込んだうえで適正なマネジメントをすることです。最初に聞く。そこから答えを導き出す。自分の答えがなさそうならこちらが選択肢を提示してやる。そして本人の希望を聞き出し、次に進む。次でも同じことを繰り返す。これしかありません。
【相談ケース54】後継者を育てるポイントは?
小山社長、いつも拝読しています。私も同じく事業を営んでおりますが、年齢のこともあり、持病もありで、できるだけ早めに次世代へ経営をバトンタッチしたいと考えています。自分が興した会社ですから、やはりしっかりした人物に継いでほしい。そこで、後継者を育てるに当たり、小山社長が普段意識していることをおうかがいしたいと思っております。(68歳 経営者・男性)
後継者にこだわらない選択も視野に入れる
ご持病もおありでは、心配が募りますでしょう。同じ経営者の身として、心中お察しいたします。後継者を育てることは、企業が新たなステージへ入るために極めて大事な条件ですが、現在の時世からは大変難しい問題であると言わざるを得ません。
昔なら「将来の夢は社長です!」と公言してはばからない、威勢のいい社員は少なくありませんでした。しかし、今はそのような人種は激減しており、下手をすると、ここ数年で絶滅するのではないかとさえ危惧しています。今は「社長にはなりたくない」とみんなが言う時代なのです。
社長になると、その企業の全責任を背負わなくてはいけません。一国一城を引き継いで最高位に上り詰めたステータスや、会社をさらに大きくしてやろうというような野心よりも、「社長になったらストレスがかかるから嫌だ」という気持ちのほうが圧倒的に強い。ここでも障害はやっぱりストレス耐性の低さです。そんなもの、トップを務めるやりがいに比べれば何でもないと思われるかもしれませんが、それが事実なのです。
時間的な余裕があれば、社員の中から生え抜きで後継者を育てることは可能でしょう。将来社長が任せられそうな人たちだけを採用し、教育していけば良いのですから。でも、大抵の会社は新人採用でそこまで視野に入れることはないですし、育てるのにもかなりの時間がかかります。
ですので、もしあなたのご勇退が近い将来の話であるならば、後継者つまり人にこだわるのではなく、事業体を存続させることそのもののほうを意識したほうがいいのではないでしょうか。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
お客様にご迷惑をかけないことと社員を路頭に迷わせないことを最優先で考えると、いくつかの方法が見えてきます。ひとつはM&Aで別会社に合併させる方法です。私が相談を受けるケースでも、最終的にこの道を選択する社長さんが増えています。もうひとつは、自社の業務を縮小すること。会社には本体機能だけを残して、他はアウトソーシングしてしまう。そうやってトップの負担を軽くしてあげるのです。いずれにせよ難しい問題ですが、100か0かで考えるより、柔軟な考え方をなさってみてください。
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今回は、世代間の精神構造、ストレス耐性構造が浮かび上がる質問と回答になりました。皆様の周辺ではいかがですか? 時代は常に移ろうもの。「最近の若いヤツはなっていない!」というのは、いつの時代も若手に向けられてきた言葉です。でも、いつの時代も、成功する社長はその時々の世代の特長を的確にキャッチして伸ばしてきました。今の時代に合う舵取り、今の人に合うマネジメントを、心がけていきましょう。
明るい我らに仕事あり ~お悩みビジネスパーソンの駆け込み寺~
vol.27 現代社員ストレス耐性構造力学
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp
(2015.2.4)