こんにちは、小山です。皆さん熱中症などには気を付けて過ごしていますか。大学生の就職活動が過熱する時期になってきますね。そんな中、経営者の頭を悩ます問題も増えていくようです。それは「新人教育」の問題。最近、ゆとり教育世代が仕事に世代間ギャップをもたらすケースが増えています。メディアでもしばしば話題になっていますね。このギャップ、2015年度入社の新人からさらに拡大します。そこで今回は、新人教育への悩みを追ってみましょう。
【相談ケース41】 ゆとり世代への対処に困る
小山社長、いつも拝読しています。ここ数年、我が社でも新卒採用を続けておりまして、今年も採用面接をする日が増えてきました。ですが、以前よりどうにも新卒者の扱いに困るケースが増えています。昨今話題のゆとり世代でしょうか、彼らの入社後、どのように対処するのがベストか、各部署の上長たちも戸惑うケースが増えていまして・・・。御社も新卒を積極採用されている由。小山社長は今の新卒者についてどのようなご見解をお持ちですか?(55歳 経営者・男性)
来春新卒生は要注意
はっきり申し上げて、2015年度の新卒者は今までの世代とは丸っきり違うという認識を持たなくてはならないというのが私の持論です。彼らには今までの常識が通用しないと考えておいたほうがいいでしょう。
その原因は明確で、彼らが学生時代に正しいコミュニケーションを学べなかったことにあります。2014年新卒生までは、ゆとり教育に切り替わる前の学生が校内の最上級学年に残っていました。それが、全学年ともゆとり教育世代に切り替わり、学内でゆとり以外の価値観に触れられなくなった最初の学年が2015年新卒生に当たります。つまり、純度100%のゆとり教育体験者が彼らなのです。
彼らの特徴は二つ。まず一つめは、本音で語ることができないこと。そういう疑似体験がないのです。友達と遊ぶにしても、皆で集まるのは集まるが、個別にゲームをするなど、バラバラのことをして遊んできた。食事の場でも常にスマホを片手に、その場にいる人たちとコミュニケートしていないのです。二つめは、人の感情をなかなか受け入れないこと。ゆとり教育では競争意識が排除されてきました。第三者とぶつかるストレスにさらされていないのです。だからストレス耐性が弱く、心の免疫力が極めて低い。
我が武蔵野も、内定者の教育は所属部署の上長に任せるのが通例でしたが、今年からは方針を変えて、私が監修に入っています。「この人はこういう性格だから、きちんと話を聞いてあげなさい」「この人は指示をしたら必ずおうむ返しのように確認させなさい」などの指示を与えています。それでも、ちょっとした軌道修正を迫られただけで彼らは心が折れてしまう。難しいですが、入口の時点で成功も失敗も疑似体験させながら進める他はありません。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
来年度新卒予定者は、一言で言えば、温室の中にさらに無菌室を作ったような環境で育ってきました。彼らには、疑似体験を重ねさせることで免疫を付けてから、初めて本当の社員教育に入れます。水道水で暮らしていた魚を川の水になじませてから放流するイメージで、良いことにも悪いことにも徐々に馴染ませながら、大きなショックを与えない教育をしましょう。
【相談ケース42】 若い子たちの気持ちをつかみたい
初めまして。営業職に従事する一社員ではありますが、昨年から自分のチームを持ち、来年は初めて新卒採用の新人をチームに迎える予定です。自分は比較的若い子の気持ちがわかるつもりでいますし、そんなに世代間ギャップも激しくないと思っています。弟分や妹分をできるだけかわいがりたいので、自分の経験してきたことを丸ごと教えてあげるつもりです。この他に、何かいいアドバイスがあれば、お願いします!(28歳 会社員・男性)
部下は上司の能書きを聞きたくない
とても気持ちはわかります。でも、「自分の経験してきたことを丸ごと教えてあげるつもり」というところが気になりますね。あなたがあまり熱を込めすぎると逆効果になってしまいかねないので気を付けてください。
せっかくですから、上司初心者の心得を教えておきましょう。まず、やってはいけないのが能書きを語ること。部下は上司の能書きなど聞きたくありません。上司が語りたいことと部下が聞きたいことが一致していればまだしも、あなたも自分の上司に対して同じように感じたことはありませんか? 特に最近の若い人たちは、会社や部署での飲み会を敬遠しがちですが、それは彼らが、今までの世代以上に、「我慢をしない」という特徴があるからです。より「話す」と「聞く」のニーズが合致していかないと、コミュニケーションをとろうと思っても空回りになります。
私の場合は、たとえば飲み会で話す時も、必ず部下から質問させます。そうなるよう導きます。その質問に対して、細切れに返答を返す。すると部下は次にまた聞きたいことを聞いてくる。それを繰り返します。細切れに返すのは、彼らが聞きたいこと以外の要素を入れないため。質問させる内容は何でも構いません。パチンコでの勝ち方とか、俗な話でもいいんです。特に最近の新人はワルいことを学んできていないので、世俗の裏側も教えてあげたほうがいい。そうやって段々と、部下を清濁併せ呑む一人前の社会人に育てていくのが、昨今の上司の役割なのです。
ではここで、今回の「小山昇の結論」。
部下を下僕扱いにしてはいけません。そこにはコミュニケーションが発生しないからです。部下は目下ではありますが、彼らにも意思があります。特に昨今の若い世代には、江戸時代の武士のような絶対服従の関係は一切通用しません。時折、「お客様第一主義」をうたう会社がありますが、案外、部下のことはお客様と同様に大事に扱っていません。釘を刺すだけ刺しておけば部下は緊張感を持って仕事をするものと高をくくっていると大間違い。相手がどうなりたくて何を求めているかを聞き、自分も一肌脱ぐ――この順序を間違えてはいけないのです。
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「最近の若いのは・・・」というボヤきは、いつの世でも聞かれますが、世代間の付き合いにくさという意味では、実はこれからが最も大変になるのではないでしょうか。上司と部下の人間関係も、ある意味永遠の課題です。でも、その課題をクリアしないと、上司は決して評価されることはありません。「部下の成長は自分の評価」――であれば、部下の育成にはかなりのエネルギーを注ぎ込んでよいのでは。暑い暑いとボヤく前に、部下との人間関係に小火(ぼや)が起きていないか、確認してみてはどうでしょう。
明るい我らに仕事あり ~お悩みビジネスパーソンの駆け込み寺~
vol.21 部下との間に小火(ぼや)出すな
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp
(2014.8.6)