こんにちは、小山です。寒い時期になると、熱燗がおいしく感じ始めます。私もよく社員たちと飲みに行くのですが、飲食店というビジネスはおもしろいですね。食材を仕入れてお酒を仕入れてお客様に出す。すると、あっという間に現金回収できる。一般的に企業のビジネスだと月末締めの翌月末払いや翌々月末払いなんてザラにありますが、朝一番で仕入れた鮮魚がその日に売れたら、在庫を抱えている時間はものの1日。スゴイことです。飲食店から学ぶべきことは、実は多い。今回のご相談を紹介するにあたって、どうしてこんな前フリをしたか。最後までよく覚えておいてくださいね。
【相談ケース23】 金融機関の攻略法は?
小山様、初めまして。若輩ながら経営者として勉強している者です。会社を立ち上げて5年目ですが、ここにきて売上が右肩下がりになってしまって・・・。そこで現在、経営管理の観点で自社のPL(損益計算書)を見直しつつ、金融機関に融資の相談を持ちかけていますが、なかなか色よい返事が返ってきません。小山社長のところに寄せられる、似たような相談事例に対して、どのようなアドバイスをなさっていますか?(39歳 経営者・男性)
経営は現金に始まり現金に終わる
おっしゃる通り、似たような相談ケースは枚挙にいとまがありません。私のところにご相談に来る社長様のうち、8割が右肩下がり、3割5分が赤字という大変な状況です。でも倒産した会社はゼロ。どうしてでしょうか?
結論から言いましょう。皆さん、相談者のようにPLだけを重視しすぎているのです。やれ売上が、やれ経費が、やれ仕入れがなどと言いながら、声高に経営を論じているような気になっているだけで、肝心のキモの部分が見えていない。そのキモとは、ズバリ 「現金」 です。
どんなに利益が出ていても、会社に現金がなかったら会社はつぶれてしまうでしょう。だから実はPLよりBS(賃借対照表)を見るほうが社長にとっては重要なんですね。驚くことに99%の社長がBSを軽んじている傾向にあるんです。
会社には最低でも月商と同額の現金がなくてはいけません。月商が5000万円だとすると、5000万円の普通預金(残高)がないといけない。たとえそれが4000万円だったとしても、「残り1000万円を借りると健全に回る」 という折衝の仕方ができるでしょう。でも、1000万円しか現金がなかったら 「こりゃ危ないな」 と誰もが思うわけですよね。
金融機関を動かすには、昨年よりも現金そのものが増える仕組みをもって交渉しなければ、うまくはいかないでしょうね。PLには現金に関する勘定項目はないものと心得てください。
ではここで、今回の 「小山昇の結論」。
経営は現金に始まり、現金に終わります。モノの長さを計るのは 「ものさし」。重さを量るのは 「はかり」。では経営をはかるのは? そう、「現金」 です。私が企業の社長に口を酸っぱくして言っているのは 「昨年より、10円でもいいから多くの現金を手にできる仕組みをつくりなさい」 ということ。武蔵野の経営サポートセミナーでは、それができないと花マルはもらえません。さて、御社はできていますか?
【相談ケース24】 赤字から黒字に急転換したい
小売業に携わっている者です。実は、自社の経営がにっちもさっちもいかない状態で、恥を忍んでご助言を求めます。数年来の赤字が継続していて、早期の黒字化が急務。でも、打つべき対策が見つからないのです。新しい商品を売り出すにしても、既存のものがうまくいっていないうえ、在庫を処理しないことには、投資もままなりません。このままでは会社がどうなるか不安で不安で・・・。起死回生の一打になる経営の極意はありますでしょうか?(56歳 経営者・女性)
まず攻めるべきは在庫なり
大変なご苦労をなさっているのですね。しかし、先に厳しいことを一つだけ言わせてもらいます。「不安だ」 と口にするのは簡単ですが、そこから先、「行動」 に移していますか? できていないのではないでしょうか。不安ばかりに苛まれて動こうとしない経営者が多いので、先に釘を刺させてもらいました。
さて、少し優しく話をしましょうか(笑)。今、御社は現金が手元にない状態ですよね。新しいことを始めるにしても、お金がないから何もできない。「動きたくても動けない」 と言われるかもしれませんが、一つだけ動ける手立てはあります。それは現金を回収してくることです。在庫があるならば、在庫をなくすこと。まずそこから動かなくてはいけないでしょう。
パチンコを例に出しましょう。遊戯をされない方でも、パチンコ屋で玉がいっぱいになった箱を積んでいる光景はガラス越しにでも見たことがあるのではないでしょうか。あれは、玉に姿を変えた自分のお金を積んでいるのです。玉のままではパチンコ以外に役に立ちませんから、皆、景品と交換するでしょう? つまり、具体的に自分にとって役立つ形に変えている。これが企業ならば・・・そう、在庫を現金に換えることです。手っ取り早い改善策として、まず在庫をきっちり整理しましょう。
ではここで、今回の 「小山昇の結論」。
「儲かっている」 という状態は、モノやサービスを早く売って、早く現金を回収し、お金がクルクルと回っている状態のことを言うのです。キャッシュフローをとことん見直して、締めから支払いまでのサイクルができるだけ短くなる方法を選んでいってください。そしてお金が早く入ってくる仕組みに変えていってください。お金がないのではなくて、お金が必要な事業をやりすぎていませんか? いくら売れても売掛金ばかりが膨らんでいく泥沼からは、1日でも早く脱却してくださいね。
*
さあ、先の前フリの意味がわかっていただけたでしょうか。今回の相談に共通する失敗は 「現金のとらえかたと扱いを間違っていたこと」 です。商売をするからには、誰もが商人です。商人が一番長けておくべきことは、時代劇に出てくる大店の番頭が現金を手に持って 「ひいふうみい・・・」 とやるような金勘定です。難しい経営理論をむさぼる前に、まずはそこを思い出してくださいね。ではまた!
明るい我らに仕事あり ~お悩みビジネスパーソンの駆け込み寺~
vol.12小山流キャッシュフロー錬金術
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。
オフィシャルホームページ
http://koyamanoboru.jp