こんにちは、小山です。9月の残暑に参ってしまってはいませんか? とはいえ、暦のうえでは秋が着実に近づいていますね。スポーツの秋、芸術の秋・・・・・・勉強が嫌いな私は、あえて勉強の秋とは言いませんが、何をするにしても、いい季節になっていく時期です。
上達の秘訣は真似
さて、スポーツにせよ、芸術にせよ、物事が上達する秘訣はなんだと思いますか? 実は、「真似」なのです。意外だと思うかもしれませんが、ある一定のレベルにたどり着くまでは、真似をすることがすべての物事において上達の秘訣になるのですね。
手前味噌な話で恐縮ですが、私の娘は幼少の頃からピアノを習っていまして、彼女を見ているとつくづく思い知らされました。ピアノの先生が教えたことを、シンプルにそのまま実践していく。つまり先生の真似をしていくわけです。それで、見事にコンテストで賞を取ったりもしていましたね。ここでもし娘が先生に教わった通りに練習せず、自分なりの工夫を加えていたとしたら、結果は違っていたでしょう。
真似というのは、レベルが高くないとできないこと。小学校3年生が中学3年生の真似をすることはできません。中学3年生が高校3年生の真似をすることはできないでしょう? それと同じで、真似をするという行為自体にスキルが必要であり、また真似をするということは高いスキルを反復練習することになるので、上達しないわけがないのです。
よく「創意工夫をさせる」という教育方針を耳にしますが、それは本当に彼らが高いレベルになってからのことで、初歩的な段階、いや中級者レベルまでは、創意工夫はいわば逃げ道にしかなりません。工夫と言うとよく聞こえますが、つまりは自分がやりやすいように、楽ができるようにしているだけなのですから。
模範を決めて形から真似る
私が誰かにモノを教えていく際も、徹底して真似から入るように指導しています。たとえば武蔵野の場合は、自社内で「私は誰々さんを真似ます!」と宣言させているのです。平社員の場合は、係長でも課長でもいいのですが、誰かひとり自分の模範となる教科書的存在を決めさせる。そして、まるで教科書を丸写しするかのごとく、徹底的に模倣させます。場合によっては、履いている靴や、持っているカバンやネクタイの傾向まで。
実は、これはとても正しいことなんですよ。真似というのは目に見える形から入るのが基本です。「誰それの心意気を真似る」「思想を真似る」などと目に見えないものを真似することなど、逆にできっこありません。でも、形ならばすぐに変えられる。そして気持ちも切り替えることができる。ジーンズとポロシャツ姿からばりっとしたスーツ姿に着替えると、気が引き締まったり、気の持ちようが変わったりするでしょう? あれと同じような変化が、真似をすることによって引き起こされるのです。
成功と失敗の分岐点はどこか?
武蔵野では、会社経営者に対してもセミナーを開催し、ご参加いただく社長に私がお話をさせていただきます。その際に必ずやることは、武蔵野を真似た経営計画書を立てさせるというもの。
「自分を真似させるとは、小山はよほど自社の経営に自信があるんだな」とうがった目があろうと、なかろうと、気にしません。事実、毎年右肩上がりで売上を伸ばしていますし、主力商品であるダスキンの販売でいえば、全国で五指に入る実績を残しているからです。しかも、社長自身が社長の仕事を教えているわけで、社長業のいろはは、そこいらの経営コンサルタントにやすやすと教えられるものではありませんからね。自信を持ってセミナーを開催させていただいていますし、参加者は皆、一様に実績を上げています。
しかし、中にはどうしても自分のやり方で経営計画書を出してくる方がいらっしゃいます。仮にその方の会社が3年間赤字経営だったとしましょう。それなのに、自分のやり方で経営計画書を書き、セミナーで是としている方法を真似しない。はっきり言って、これはセミナー費用の無駄使いですね。
こういう場合、私は遠慮なく言います。「あなたのやり方が間違っているから、今までお客様に評価されなかったのでしょう? だったらそのやり方を抜本的に変えなくてはいけないのに、どうしてそれをしようとしないのか?」
結果的に、そこが社長さんの分岐点になることが往々にして多いですね。そこで「よし、小山の言うとおりにやってみよう」とプライドを捨ててでも私の真似をしていただけた方の会社は、まず倒産しません。倒産しないやり方を教えているわけですから、社員を不幸にさせるような経営は私がさせませんよ。反対に、「自分の会社なのだから、自分の色を出さなくてはいけない。小山のやり方をもとに、“自分で工夫して”やっていこう」と考えた方がことごとく失敗していく残念な例を、何度も見てきました。
小山が身に染みた「真似」の偉大さ
かの大芸術家・岡本太郎も、彼の名が一躍知られるきっかけとなった大阪万博で太陽の塔を出したとき、ベネチアにある小さな像を真似たと言われています。歌舞伎や狂言など日本の伝統芸能も、まずは師匠の真似から入り、その芸を身体に沁みこませていきます。小さな赤ちゃんが言葉を覚えるときも、お父さんやお母さんの言葉を真似て、ひとつひとつ覚えていきます。真似というのは、成長のための礎となるのですね。
ちなみに、私がまだ20代だった頃、二つ下の後輩がとにかく女性にモテていました。ある日、歌舞伎町で飲んでいたとき、私は彼に聞いてみたのです。「おい、どうやってそんなにモテているんだ?」。彼は言いました。「そんなの簡単ですよ。こうやってああやって・・・云々」。
彼のやり方を聞いた私は「そんなことでモテるわけねえだろ。お前、俺を担ぐんじゃねえよ」と一笑に付しました。しかし、その2年後、ふと彼の言葉を思い出して、そのままやり方を猿真似してみたのです。すると、そこから私の不幸が始まりました・・・。モテすぎて、44歳になるまで結婚できなかったのです(笑)。真似というものは、本当に馬鹿にできないものなのですよ(笑)。
自ら働き、自ずから楽しむ ~小山昇・独自経営の哲学~
第10回 見よう見まね、猿まね万歳!
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。