こんにちは、小山です。暑さの厳しい7月、早いもので1年も折り返し地点です。それと同時に、半年間お世話になった皆様へ、感謝の意を表明する時期でもあります。そう、お中元ですね。
みなさんは、お中元をどのように考えているでしょうか? お付き合いで毎年とりあえずお贈りしている人、そもそも 「中元なんて古いしきたりじゃないか」 と割り切って考えて、贈らない人・・・ 昨今では贈り物ひとつとっても、さまざまな考え方がうかがえます。しかし、中元歳暮というものを侮ってはいけません。これがお客様との絆を深めるために、大変重要なものなのです。今回の話は、中元歳暮に見る、贈り物の心得についてです。
お中元は“届いていない”?!
毎年、お中元の時期になると、どんなものをお贈りしようかと頭を悩ませる人が多いでしょう。「あの会社の社長さんはビールがお好きだからビールセットにしようか」 「いやいや、先日少し体調を崩されたようだからヘルシーな野菜ジュースセットにしようか」 など考えをめぐらせます。
しかし、肝心なところにまでは思考が及びません。それは 「お中元を何のために贈るのか?」 ということです。
たとえば、あなたが取引先にビールをお贈りしたとしましょう。社長の好きな銘柄を選んで、配送業者の伝票にていねいな手書き文字で書き込んでお送りしたものが、事務所に届けられます。事務員が内容を確認して、「社長、株式会社△△の○○様からビールが届いています」 「そうか、彼はよく気が利くじゃないか。さすがだな」・・・ とはなりません。
そもそも事務員が、送られてきたものをすべて社長に報告すると思いますか? 残念ながら、ほとんどの会社でそうしたケースは見受けられません。よしんば報告したとしても、お中元リストのような形でまとめられ、その一行に加えられるのがオチです。つまり、あなたが考えに考えて、「贈った」 と思い込んでいる品物は、社長の心どころか、手元にも届かない場合が往々にしてあるのです。
社長が自ら届けるギフト
そもそも、中元歳暮というのは、半年ないし一年、お世話になった感謝をお届けするもの。それが届いていないということは、感謝していないと受け取られても仕方がない。
私はそういった感謝のしるしが 「届いていない」 と思われたくはないので、間違いなく届けられる方法を選んでいます。自分で直接届けてしまえばいいのです。
武蔵野では、社長以下部長以上が、全員手分けをしてお客様に直接中元歳暮を届けることが会社のルールとして義務化されています。中元ならば毎年6月16日から7月15日まで、歳暮ならば11月16日から12月15日まで、幹部連中は他の仕事よりもギフト配りを優先するのです。
幹部の誰がどのお客様に配るかも、すべてルールにもとづいて決められています。取引年数、取引規模などをかんがみて、契約年数が30年で売上げがいくら以上のところは必ず社長が担当するなど、事細かに。私が担当する件数は、最近でこそ年間200社程度になりましたが、1999年までは年間450社は訪問していました。その結果、私が訪問したお客様で、ここ三十数年間でライバル会社に取られた数は何社か。答えは 「ゼロ」 です。
社長が訪問するだけで、なぜお客様を守ることができるのか? 答えは簡単です。常に忙しいトップがわざわざ訪問することで、お客様は心底大事にされていると感じるからです。手前味噌な話ですが、書籍を上梓したり、このような形でコラムを書かせていただく関係で、私も最近はそれなりに世間に知られるようになってきました。そんな中、私が訪問すると 「あの忙しい小山さんが・・・」 と感動してくださり、私たちの姿が見えなくなるまで見送ってくださったりします。
だからこそ、私が訪問するお客様の心にライバル会社が入り込む隙間は一切ありません。反対に言えば、ライバル会社に顧客を奪われることが多い企業は、社長以下幹部連中が、あまねくそうした顧客管理を怠っていることが窺えるのです。
贈るのは必ず鉢植えの花
ギフトを直接届けるのは、決して珍しいことではなく、昔から巷で当たり前のように行われてきたことでした。昔は宅配便なんて便利な社会機能はありませんでしたから、中元歳暮の類は、一つひとつ先方にお届けしたものでした。
昨今は宅配便のネットワークが日本全国にめぐらされていますから、確かにわざわざ自分が動かなくても、1000円そこそこで日本各地にモノを送れます。しかし、モノは送れても感謝の気持ちは送れません。送れたとしても1000円程度は安すぎませんか。そんな価格で感謝が表せるでしょうか。ようするに、感謝は形にしないと伝わらないということなのです。
さて、肝心の贈り物の内容はどんなものがいいでしょうか? 武蔵野では、決まったものをお贈りします。それは鉢植えの花。シクラメンや、上得意先ならば胡蝶蘭などです。病院へお見舞いに行く際は基本的に全部切り花ですよね。「ベッドに根付かないように」 という縁起をかつぐからです。しかし、企業の場合は、お客様のところに根付いたほうがいいのです。
そう話すと 「では、大きな観葉植物で、もっと印象付けましょう」 などと言ってきた社員がいました(笑)。実はここでも一つポイントがあります。観葉植物でも、たとえば針葉樹など枯れにくい植物は不向きです。だって、考えてみてください。毎年、半年に一度鉢植えの花を持っていくわけですから、“枯れてもらわなければ困る” のです。根付くこと、そして半年後に再び持っていけること。これが中元歳暮では大事なのです。
ちなみに、私はお届け先にお邪魔する際は、社員に花を持たせて前を歩かせ、自分は必ず後ろを歩きます。あるとき社員が尋ねてきました。「社長、私がどういうふうに挨拶をするか、チェックしているんですよね?」 もちろんそれもある。しかし、私は社長です。社員が落とした花びらを私が拾う、つまり彼の不始末があれば私が尻拭いをするということを常に意識しているので、そうなっていくのです。
中元歳暮ひとつとっても、お客様の気持ちを結びとめておくためには重要な手段です。本当に意味のある内容を、確実に相手に伝わる届け方を、考えてみてください。その後ろ姿を、お客様も自社の社員も、ちゃんと見ているのですから。
自ら働き、自ずから楽しむ ~小山昇・独自経営の哲学~
第8回 中元歳暮で絆を深める
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。