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ノウハウ 自ら働き、自ずから楽しむ  vol.2 正しさと率の罠を見やぶる 自ら働き、自ずから楽しむ 株式会社武蔵野 代表取締役社長

ノウハウ

 
 新年あけましておめでとうございます、武蔵野の小山です。今年は辰年。景気も龍の如く、上を向いていくようになってほしいものですね。武蔵野は、相変わらずの調子で今年もやっていきたいと考えておりますので、よろしくお付き合いのほどをお願いいたします。
 
 

武蔵野の経営計画はいい加減?

 
 さて、新年あけましても武蔵野は少し風変りな会社であることには変わりありません。風変りではあっても、会社としてやっていることはきちんとやっています(笑)。 たとえば経営計画書しかり。
 武蔵野では毎年、経営計画書を作成しており、1冊にまとめて全社員に配布しています。経営計画書といえど、単に計画的なものが書いてあるだけではありません。お客様への対応や社員教育、さらには今季の方針や各部門ごとの売上・利益目標、社内行事予定や社員序列、さらには安全運転の方法や効率的な配達のテクニックまで幅広くまとめられており、まさに 「○年度武蔵野業務ハンドブック」 とも呼ぶべき1冊です。
 この経営計画書を発布するにあたって、計画(数字) をどのように導き出し、社員と共有しているか? 説明すると驚かれることが多々ありますので――これも私には当たり前のやり方なんですが――ひとつご紹介いたしましょう。
 いつも幹部社員に向けても言っていることですが、経営計画書において 「正しい計画を立てようとしてはいけない」 という名言(?)があります。もちろん、言葉の出所は他ならぬ私です(笑)。 もっと乱暴に言うと、「計画なんてでたらめでいいんだ」 とさえ言います。本当に言い切ってしまいますから、初めて私の考えを聞く方の中には 「小山さん、正気ですか? そんなこと言って会社の舵取りは大丈夫なんですか?」 などとご心配をいただくこともあります。ご心配には及びません、私はいたって正気です。
 
 なぜこんな、一見暴論とも思えるようなことを言っているか? それには明確な理由があります。
 世の大部分の 「計画」 はどのようなプロセスで立案されているでしょうか。たとえばAという商品とBという商品、この二つについて販売計画を立てるとしましょう。マーケティングやリサーチなどの結果から、「今年はAが好感をもって見られているから、Aは売上げ1億を目標にしよう。Bは・・・Aほどの注目度はなさそうだから、目標5000万円くらいにしておくか」 などと話し合いが重ねられるでしょう。もちろん、ここでは原稿枚数の関係でざっくりと申し上げているので、本当はもっとしっかり議論されていると思いますよ。そして結果は・・・あにはからんや、Aが5000万円でBが1億の売上げを上げていたとします。
 
 

「計画」はあくまで仮説であること

 
 さて、皆さんなら翌年の販売計画をどのように立てますか?
 ここでやってはいけないのが、「Aが思うように売れなかったから、Aをしっかり売るための努力をしよう」 と考えることなんですね。だってそうでしょう? 販売結果というものはダイレクトにお客様の動向が反映されるものです。この例でいえば、お客様はAではなくBを欲しがっているわけです。つまるところ、翌年の販売計画ではお客様のニーズがあるBのほうをさらに売れるようにし、Aによるロスを抑えていくように考えなくてはいけない。このことをなんと呼ぶか、おわかりになりますか? そうです、「対策」 と呼ぶのです。
 だから私は経営計画の数値目標については悩むことはありません。その時々の気分に合わせて、この部門は何億円、この部門は何億円という具合に、ざっくりと数字を割り振ってしまいます。これを適当と言う人がいるかもしれませんが、適当と言うなら確かに適当。しかし、1年後には実績が具体的な数字になって表れるわけですから、この実績の数字と計画上の数字との差が、そのまま社長の考えと市場の考えの差だということがわかる。
 「計画なんてでたらめでいいんだ」 という真意は、ここにあるんですね。最初のうちから完璧な計画を立てようとしても、必ず市場ニーズとのギャップは出てくる。最初は仮説としての計画を立て、その仮説に基づいて対策を練る。それが、現実的な計画の立て方なのです。多くの方が、正しく、市場評価と寸分の狂いもない計画を立てようとします。しかし、「本当に正しい計画」 というのは、その認識の真逆なのです。
 「計画」 は、あくまで計算であり、画策の粋を出ることはありません。仮説をもとに検証を重ねるからこそ、自社が正しい方向に導かれていくのです。市場が不安定な時代だからこそ、荒波や激しい潮流で舵取りの方向が分からなくなったとき、「正しさ」 とは何かを今一度突き詰める必要があるでしょう。
 
 

「率」のマジックに翻弄されるな

 
 もうひとつ、経営計画を考えるうえで重要な要素があります。それは 「率」 の考えをあまり重く見ないこと。利益率、粗利率、前年比何%・・・ 「率」 は経営のいたるところに顔を出してきます。しかし、この 「率」 はある種、数字のマジックのようなものなので、私は常々 「率ではなく額で考える」 ということを大事にしています。
 簡単に言うとこういうことです。1000万の売上げを上げている会社があるとしましょう。その会社が100%の成長をしたら、売上げは2000万円ですね。つまり、「率」 でいえば大変な急成長、大躍進を遂げているように見えます。
 いっぽうで、1億円の売上げを上げている会社が、翌年1億5000万円を売り上げたとします。成長率でいうと50%の成長にしかなりません。前者の半分です。ただし、売上げの数字で言うと、前者は1000万円増なのに対し後者は5000万円増。すなわち5倍もあるということがわかる。
 もちろん、この二つの会社の間には、事業規模などさまざまな環境面の違いがあるかもしれません。しかし、会社は利益をあげてこそナンボで、利益を上げなくては従業員に賞与を支払ってあげられないわけです。「成長率が前年度の倍になりました! だけど売上げはまだまだなので、皆さんの賞与を増やすためには成長率500%を目指しましょう」 なんて言われたら、社員だって 「なんだそれ?」 となるではありませんか。
 
 

打開策は見つかるもの

 
 ついでだからもうひとつ。会社の規模も商品も似たような会社AとBがあったとします。A社は金利1.5%で融資を受けている。片や、B社の金利は2.7%です。金利の 「率」 だけで見ると、「どうしてB社はA社と同じ銀行から融資を受けないのだ?」 と思いますよね。実にいぶかしい。しかし、実はA社の売上げは1000万円で、B社の売上げが5000万円だったとしたら? 金利云々ではなく、借りたお金をどこまで売上げに貢献させられているかという面では、明らかにB社のほうが経営巧者でしょう。こうした経営の実態は、売上げの本質は、単に 「売れた」「売れない」 に一喜一憂していても見つかりません。
 
 社長には 「利益を出す」 責任というものがあります。景気が悪い、市場が冷え込んでいる、消費者の動向が変わった・・・言い訳はいくらでもできます。しかし、そうした言い訳に甘えていてはいけません。そんなヒマはありません。「なぜ、お客様は買ってくれたのか?」「なぜ、この商品は売れなかったのか?」。仮説をもとに計画を実行し、実績を検証し、対策を打つ。数字のマジックに踊らされない眼力があれば、打開策はいくらでも出てくるように思います。
 
 経営者の皆さん、今年も明るく元気に、それぞれの会社をひっぱっていきましょう!
 
 
 
 自ら働き、自ずから楽しむ ~小山昇・独自経営の哲学~
第2回 「正しさ」と「率」の罠を見破る
 

 執筆者プロフィール  

小山昇 Noboru Koyama

株式会社武蔵野 代表取締役社長

 経 歴  

1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。

 
 
 
 

 

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