はじめに
B-plus読者の皆さん、こんにちは。株式会社武蔵野の小山です。
さて今回、どうしてこのようなコラムにお付き合いいただくことになったのか? 実はよく言われるんです、「株式会社武蔵野って、変わっているよね」 と。自分では変わっているつもりなんてまったくなくて、自分なりに当たり前と思うことをやっているだけ。ということは、外から見ると、風変りな社長、風変りな会社だと思われているということかもしれませんね。だけど、それはそれでいいんです(笑)。 きちんと業績を上げていれば、「風変り」 だって一つの成功事例です。そこで、担当編集さんいわく 「風変りな武蔵野を目いっぱいご紹介してほしい」 ということで、筆をとらせてもらうことにしました。
風変りと言えば、武蔵野は “おもしろい人” しか採用しません。普通は会社説明会などで 「我が社はこういう点で素晴らしい会社です」 とアピールするところから始まります。武蔵野の場合はちがう。「こういう人は来ないでください、受けないでください」 というところからスタート。いくら頭が良くても楽しくない人はうちの会社に来てほしくないし、女性なんて 「もし私が独身だったら口説きたくなる」 というのが前提だから(笑)。 それは冗談ですけどね。
一つの城は大きな石や小さな石、砂や砂利が混ざってできます。人材だって同じです。4番バッターばかり揃えたところで、まともな打線なんてできないですよ。では、武蔵野はどうしてまともな打線ができているのか?
信賞必罰、もちろん罰金付き
よく、会社の雰囲気について 「武蔵野さんは従業員の雰囲気が明るいですね」 と言われます。雰囲気が明るい理由は、何でも原因がはっきりしているからです。ジメジメしたような雰囲気になってしまう会社には賞があって罰がない。その逆も然りです。
武蔵野でよく知られているのが罰金制度です。要するに、「罰金を払えばお咎めなし」 というわけですね。実に単純でしょう? これは交通違反の罰金みたいなものなのですが、自分がやったことについて自分で痛みを感じるから、人は反省するのです。交通違反でキップを切られて、罰金を払う人と払わない人がいたら、それこそ不公平極まりない。
当社はどんな立場であっても、「ハイ、罰金」 となるから、信賞必罰、明朗会計。もしこの罰金を私が懐に入れたりしたら問題ですが、実はきちんと使い方も徹底しています。なんだかんだで年間80万円くらい貯まるのですが、毎年社員旅行でジャンケン大会をして、勝った社員に賞金として返しているんです。つまり、返してもらえるチャンスがあるから、罰金だって素直に払うわけです。
ちなみに罰金のケースは、会議で遅刻すると1分1000円。ただし、これは社長の私が主催する会議に限ります。ここが重要なんですよ。「部門長や課長たちが主催する会議で罰金をとってはいけない」 と明確に規定してある。罰金を取る人と取らない人が出てきますからね。社長の指示を守って罰金をまじめに取る上司と、罰金を取らずに甘やかす上司がいると、みんな不公平に思うはずでしょう?
その罰金も 「変動相場制」 で、給料日前は高値にしておきます。こういった細かいルールは社内規定として明文化されています。すべて 「不公平感がないように」 と定められたものばかり。こうしたルールを厳密に運用していくことが一番重要なんです。
ルールは後から直してナンボ
「ルールを厳密に運用する」 と言うと、もうすべてがルール上位の考え方になりそうですけど、そうではない。ルールなんて、最初はざっくりと作っておいて、後から直すことのほうが大事なんですよ。最初から完璧なものを作って、それを未来永劫守りましょうなんて意識でいるから息が詰まってしまうわけ。まず作る! そして運用する! うまくいかなかったら直していく! この繰り返しで、会社のルールというものは運用されていくべきなのですね。
たとえば 武蔵野では 「半期で2枚の始末書を書いた者は賞与を半額にする」 というルールがあります。2枚で半額、つまり4枚ならゼロ。実際に、賞与がゼロになってしまった社員もいました。だけど、これは明文化されたルールに則っているわけですから、社員の間からは不満の声は聞こえてきません。もしもそのルールが厳しすぎるようであれば、変更を検討していけばいいことじゃないですか。それ以下でも以上でもないんです。
ちなみに、当社の場合、ルールを変更するのは社員です。私ではありません。私は承認するだけ。社員が自分たちで考えたルールを 「社長、これでやっていこうと思います」 と持ってきたら、「そうか。では、よろしく」 と承認する。しかし、現場はルールを変えれば変えるほど自分たちの首が絞まるわけだから、ルールに縛られすぎるようになってきたら、また相談に来る。「社長、昨年取り決めたルールですが、このように変更したいと思います」。するとやはり私は 「そうか。では、よろしく」 と承認する。大事なのは 「決めたことは守りなさい」 と一言添えることだけ。自分たちで決めたルールなんだから、不平不満の出しようがないでしょう。
ルールと言うと、つい厳しいものが想像されますが、逆に規制緩和だっていいわけです。単純に 「守れないルールは定めない、ルールを守れなければ罰が待っている」 という明快な前提があればいい。
だから、一度決まったルールは、社長の私でも守らなければいけません。当然、そのルールが守れなければ私だって罰の対象になります。実際に、過去、謹慎2日が課せられたことがあります。その時に、不意な来訪者があって、社員が言ったそうです。「社長はただいま2日間の謹慎中で出社させておりません」 と。先方は目を白黒させていたと聞きました。それはそうですよね(笑)。
社内不倫は即刻解雇
ルールについてもう一つ。武蔵野では、不倫については厳罰を定めています。社内不倫が組織にもたらすものなど、悪影響以外何もありませんからね。そもそも 「既婚者は婚外恋愛をするべからず」 というのは、現代日本において当然のモラルです。それすら守れない人間に組織のルールが守れるわけがありません。しかもその関係が上司と部下であれば、叱るに叱れなくなるかもしれませんし、周囲だって必要のない気遣いをしなくてはならなくなる。こんなことでは社内の士気が上がらない。
したがって、社内不倫をした場合は、社員・アルバイト・パート関係なく、即日解雇です。即日です、問答無用で。これは毎年発行しているルールブックにも明文化されています。それでも、過去に一度、社内不倫の噂が流れたことがありました。該当社員の奥様から会社に電話がかかってきたのです。「おたくは社内不倫を見過ごしたままなんですか?」 と。
そこで、どう対処するかが武蔵野流。疑惑が出ると、その疑惑の内容を全社員にメールで流してしまいました。「かくかくしかじかという電話が匿名でかかってきた」 ――もちろん誰か特定されているわけではないので、名前は出ていないメールです。でも社内は大騒ぎ(笑)。 その二人はきっと青ざめていたでしょう。その後、すぐに別れたんでしょうか、二度とその電話はかかってきませんでした。
こんな全社メール、普通は流さないでしょう? だけど、私は会社にとって都合が悪いことだってオープンにします。みんなで大騒ぎして、どうしようかと相談するから、規律への意識が生まれるのです。さらに、次に同様の問題を起こさせないために、彼らがルールを考えてくれます。
そして、決めたルールは “さっぱり、すっきり、徹底する” ことが大事。会社の雰囲気を良くするのも悪くするのも社員ですから、彼らが自分たちの行動を見極めるためのルールと、その運用スタイルは、武蔵野の宝の一つでしょうね。
自ら働き、自ずから楽しむ ~小山昇・独自経営の哲学~
第1回 ルールが会社を明るくする
執筆者プロフィール
小山昇 Noboru Koyama
株式会社武蔵野 代表取締役社長
経 歴
1948年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。1964年に日本サービスマーチャンダイザー(株)を設立し、ダスキンの都内加盟店第一号となる。1987年、(株)武蔵野に社名を変更。以来、元暴走族の社員を抱え「おちこぼれ会社」と揶揄されていた同社を優良企業に育て上げ、2000年には(財)日本生産性本部より「日本経営品質賞」を受賞した。他にもダスキン顧問(1990~1992年)、また全国の経営者でつくる「経営研究会」も主催し、ビジネスの世界におけるメッセンジャー的な役割を担う。現在は社長業と並行して日本経営品質賞受賞の軌跡や中小企業のIT戦略、経営計画書づくり、実践経営塾などをテーマに年間240回以上のセミナーで全国を回り、テレビを含め各メディアからも注目を集めている。