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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

知の身体性を教え、学ぶ
創造的なリーダーを育てる

 
 
いつの頃からか、「心が折れる」 という表現が聞かれるようになった。ビジネスの現場でも 「心が折れた」 「萎えた」 といって途中で仕事を放棄してしまったり、あきらめないで取り組んだ先に新しい世界が広がることを知らないまま、同じステージに、同じ思考・行動パターンのままで安住してしまう若い世代が増えている。リーダー育成の研究を長年続けてきた齋藤氏には、どんな打開策が見えているだろうか。
 
 

具体的に、上機嫌に

 
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 私はもう20年ぐらい、20代の若い人と付き合っていますが、彼らが不機嫌なリーダーを苦手にする傾向は年々顕著になってきています。考え方や性向はむしろ真面目になっていて、問題なのは、彼らが真面目かつ消極的であることですね。真面目かつ積極的だったら手がかからないのだけど(笑)。彼らがそうなるようにちょっとスイッチを切り替えてあげるのが、リーダーの役目です。ここでも “空気を作る” ことが大事。
 空気を作るというのは、実は具体的にできるんですよ。身体を上機嫌モードに保つには、一日のうち、気付いた時に軽くジャンプをする習慣をつけるといいです。一度にほんの4~5回でOK。膝のクッションを使って、肩甲骨を揺さぶって、ボクサーが縄跳びをするイメージです。目立たない程度にでも軽く体を揺さぶってから部下に話しかけてみてください。お互いの間の空気が全然違ってきます。
 そのうえで、若い人たちに対しては、ミッションを明確にするべきです。目標を明確にして、「できるだけこうしたほうがいい」 と言うとやりませんから、「必ずこういうふうにやってくれ」 と言う。やり方のモデルは必ずフォーマットで見せて、「完成はここだ。2割やったところで見せてくれ」 というふうに、教える側がちゃんとシステムを作らないとダメです。システムに乗ってできるようになれば、所要2週間を1週間に、3日にと圧縮していくぶんには、彼らは対応できます。その際に、一人ひとりに声をかけて評価することが大事です。褒めコメントを多くして、柔らかく盛り上げていくのが基本ですね。
 私はリーダー育成の研究を通じて、今の若い人だって、教え方次第でいいリーダーに育てられると実感しています。やり方としては、たとえば3人ぐらいの小規模のブレーンストーミングを運営する練習を繰り返させてもいいでしょう。参加者の発言を上手に引き出しながら討論や議論を促進する人をファシリテーターといいますが、役職に関係なく自由にアイデアを出せる場のファシリテーター役をたくさん経験すると、臆さず意見を言えるようになります。自由に発言して評価される体験は自信のサイクルを育てますから。そこまでくれば、リーダーとしての下地は育っています。
 
 
 
研究を続けてくる間に、時代の変化も感じてきた齋藤氏。仕事やビジネスにおいて重要なものも以前とは変わってきた。中でもインテリジェンス=知性が、近年ますます重要になっているという。でも、インテリジェンスとは何だろう? 知性とは何だろう? 齋藤氏は二つの局面で解説してくれた。
 
 

慣れと技

 
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 インテリジェンスは確実に、重要になってきています。一つには、仕事を 「整理して」 考える能力が求められるようになってきました。「これとこれとは分けて考えよう」 とか、「これはこうやればできるからワンパックにして今はどけておこう」 とか、論理的に事を進める知性ですね。
 もう一つ、精神力としての知性があります。精神力が弱い人は多いです。といっても、精神力は、プレッシャーがかかると挫けるとか、すぐ会社を辞めるとかいった気分的なものではなく、一種の技としてとらえたほうがいい面があります。仕事を始めて1年目はすごく疲れるけれど、2年目3年目は意外と平気だっていうことが、あるでしょう? 基本は “慣れ”。経験値の高さなんです。経験値イコール精神力ととらえれば、「いろんな経験が知性によって精神力に変換されていく」 という回路が理解できると思います。回路は、慣れによってストレスを減らしていく作業を意識的に行うことで鍛えられます。具体的には、たとえば過去に経験したことについて、「この仕事は1年間やったからベースがある。多少のことはストレスに感じない」 と、声に出して自分に言うんです。それでストレスを激減させて、新たな課題に取り組むエネルギーを確保する。こうした一連のロジックを自分で整理・強化できるのが 「技」 であり、精神力としての知性です。
 これはスポーツの世界でははっきりとあることで、サッカーの香川真司選手がマンチェスター・ユナイテッドに移籍する際、ファーガソン監督は 「彼は慣れてるから (やれるだろう)」 という言い方をしたんですね。マンUの7万人のファンの前でプレーすると普通は浮き足立つものですが、「カガワはそうじゃない」 と。ファーガソンは香川選手の精神力を評したように見えるでしょう? でも実際は、彼がドルトムントで、7万人の前でプレーしていたから大丈夫という判断なんです。ファーガソンは知性の技的な面をわかってますよね。
 
 
 
 

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