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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

陸上界で輝く選手を育てる
トップ指導者の育成理論

 
 
指導している選手たちに心を預け、いわば“乗り移って”走り、喜びを共にする。そんな自分を 「指導者らしくない」 と退ける高野氏。練習を指導中には、自分が選手の感覚でいるからこその出来事も、しばしば起こるという。
 
 

“降って”きたから練習変えます

 
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 たとえば、グラウンドでいきなり練習メニューを変更してしまうことがあるんですよ。直感的に。そんなときに末續のようなエース選手が言うわけです。「みんな、先生に “降って” きたみたいだから、練習変えるよ。先生が思いついたやり方が一番いいんだから」 と。そうやってチームをまとめてくれるんです。この信頼関係があるからこそ、私も指導をできている。
 でも、その末續らが中心になる前、4~6年くらいまでは、チームの雰囲気は大きく違いましたね。雰囲気が悪いわけではない。しかし結果が出る雰囲気とは言えなかった。だから、私は練習内容や練習スタンスをがらりと変えてしまいました。前任者のやり方を否定するつもりはありませんが、私のやり方とは大きくかけ離れていましたからね。
 私が就任したのは、ちょうどシーズンインする4月。4年生らの上級生は、今までなじんだやり方でシーズンに入るものと思っていたようです。そこで練習が根本的に変わったから、彼らは当然、戸惑いましたよ。「なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ?」 「もう練習には出てきたくない、一人でやりたい」 という不満も相次ぎました。選手の気持ちはよくわかる。それでも、かわいそうですが、「私のやり方についてこれない者は去れ」 と突き放さないと、「強化」 という面では支障が出ます。だから私は心を鬼にしたんですね。
 そこからが勝負でした。主だった選手がいなくなってしまうわけだから、当然、チーム力は弱まります。残った選手たちは新しい練習で着実に力をつけている。チームの雰囲気もいい。しかし、どこか自信が足りない。いざ試合になると、皆が皆、ビクビクしてしまうんですね。
 どうしてそのようになってしまうか? それはチームの柱、大砲となる選手がいないから。そう考えていたときに、ちょうど末續らの世代が1年生として東海大学に入ってきたんです。
 チームに自信を植え付けるためには大会で結果を出すのが一番です。結果を出すためには、チームを鼓舞し、牽引する主軸が欲しい。主軸の種が見つかったなら、それを確実に育てていきたい。では、どうやって育てていくか? 私は、あえて選手を差別するやり方を選びました。
 
 
 
高野氏の策は、末續選手ら1~2年生の若手からインターハイ下位入賞を果たした選手4名を選抜し、彼らだけをアメリカ合宿に連れて行くというものだった。「4年後に天下を取るため、お前たちでチームを引っ張れ。そのためにはまずお前たちが強くなれ」。そういうメッセージだった。
 
 

4人の主力がチームを牽引

 
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 意外に思われるでしょうが、当時いた選手たちはこの差別に誰も反発しませんでした。それは、そのやり方で結果を出したからでもありますね。末續はアメリカから帰ってきてすぐにオリンピックの標準記録を破って代表に選ばれましたし、アメリカ組4名が組んだリレーでは、全日本選手権の学生記録を打ち立てました。つまり彼らが強くなり、結果を残したことで、「自分たちもできるんだ」 という自信が、チーム全体についたのです。
 選抜の4名も、自分たちが牽引していかなくてはいけないという使命感がついて、差別を導入してからのほうがむしろ、チームは一つにまとまっていきました。彼らがアメリカから帰ってきたときのチームの雰囲気がすべてを物語っていましたね。以前とはまったく違うモチベーションを感じましたから。
 おもしろいのですが、部員全員で 「誰と一緒に練習をしたい」 と無記名の投票をさせたことがあるんです。そのときに、その4名が必ず入っていたんですね。つまり、彼らを柱としてチームが強くなることは、自分たちも一緒に強くなっていくことなのだと、一人ひとりが理解してくれていた。
 こうしたやり方に賛否両論があることは理解しています。それを踏まえたうえでも、チーム全体を底上げしていこうとするときに、やはり中心人物、核となる人物を育てていくことがベストだと、私は今でも思っています。チームの枠組みを作ることは家を建てるときの柱を作ること。柱がないと家が建たないのと同じように、核を作ることが、何より大事なのです。
 
 
 
 

 

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