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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

角界に旋風を巻き起こした男の
逆境に負けない修羅場の美学

 
 
 
そんな舞の海氏も、1996年に、怪我という逆境を迎えることになった。夏場所、小錦関との取り組みで、約300キロの巨体が左膝へのしかかり、左膝内側側副靭帯を損傷してしまったのだ。3ヶ月のリハビリ期間を経て復帰をした際、舞の海氏の心に、新たに芽生えるものがあったという。
 
 

怪我で得た気付き、そして光明

 
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 正直な話、相撲をやめることも考えていました。でも、怪我をしながらも土俵に返り咲いた先人たちは多くいましたので、人にできて自分にできないままにすることには恥の気持ちを感じました。「あまりにもカッコ悪すぎるじゃないか」 と思ったんですね。
 復帰後、「復帰して良かった」 と思いましたよ。大きな気付きを得られましたから。怪我をする前は日々の勝負に追い立てられて余裕がありませんでしたが、「いつ土俵人生が終わるかわからないから、今の瞬間を大事にしよう」 と思うようになったんです。すると、一日一日を大事に過ごすようになったんですよ。
 最近、何でも 「当たり前」 の世の中になっていますよね。工夫をしなくても手に入るものが多い。でも、逆境を迎えたときに、自分本位な意識が強すぎると、這い上がれなくなると思うんです。逆境を乗り越えるために一番必要なのは、もしかしたらそこではないでしょうか。私も、現役時代は常に師匠がいて、叱りつけてくれ、導いてくれていました。しかし、今は叱ってくれる人はいませんから、「現役時代の師匠だったら今の自分をどう見るだろうか」 と常に考えて動いています。そして、アドバイスをくれたり、反対意見を言ってくれる人を大事にしようとしていますね。そうしたことって、自分本位で生きていたり、プライドが変な方向に伸びていると、気が付けないんですよね。
 
 
 
プライドというのは、どの世界でも実に厄介なものだ。舞の海氏は 「プライドをはき違えると、どんな世界でも成功はない」 と力説する。プライドがいたずらに高すぎると、自分の足元が見えにくくなりがちだ、と。
 
 

問題のベクトルを自分に向ける

 
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事務所書棚に並ぶ相撲関連の書籍。本からも多くのことを学んできた
 私が相撲から学んだ最大の教えは 「勝っても驕らず、負けてもひがまず」 ということです。人のせいにすると簡単ですが、進歩や成長にはつながりません。よくありますよね? 自分の仕事がうまくいかないのはこの上司のせいだとか、あの部下のせいだとか。家庭においても、自分が不幸だと思うようになったのは、旦那のせいだとか妻のせいだとか。そういうことを考えているうちは、逆境を跳ね返したり、ハンディを克服することなんて絶対に無理だと思うんですよ。
 相撲というものはチームプレーではありませんから、すべて自分で作戦を考え、自分で実行するしかない。だから、たとえば取り組みで負けてしまったとしても、「自分のどこに問題があったのか」 という部分をスタート地点にして考えないと、結局、本当の敗因がわからないんです。土俵が滑りやすいから負けたとか、言い訳はいくらでもできる。でも滑りやすい土俵で戦っているのは相手だって同じなわけで、土俵のせいにしたままだと、もしかすると踏み込み方に問題があったとしても気が付きませんよね。それでは正確に物事を考えられなくなるし、自分の引き出しもなかなか作れなくなってしまう。
 実生活でも同様ではないでしょうか? 「自分がこう動けば、周りはきっとこうなる」 という自分に責任を持つ目線はとても大事だと思っています。逃げ道を用意してしまうと、成長はありえませんから。
 
 
 
「逃げ道を用意すると、成長はない。なのに・・・」 という懸念を、舞の海氏は角界に見ているという。世代交代による力士たちの価値観の変化、観客の変化、それに対応しきれない角界の 「伝統」。「平成の牛若丸」 による角界への提言には、ビジネス界にも刺激になるエッセンスが含まれていた。
 
 

角界と実業界への提言

 
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 相撲は、スポーツではなく神事で、そこに伝統芸能、格闘技的競技性や歴史的に様々な要素が混在しているというのが基本的な考え方です。しかし、これだけ価値観が多様化し、スポーツの世界も華々しいものになってくると、観客は 「おもしろいものを見たい」 と思って競技会場に足を運ぶわけです。相撲でも、つまらない相撲よりは、おもしろい相撲を見たいわけでしょう? 取り組みの迫力や、息をのむ展開などは最も必要ですし、伝統の残さなければいけない部分は残し、変化する部分は変化していかないと、最終的に大相撲は継承者の乏しい古典芸能となってしまうでしょう。
 あまり知られていませんが、大相撲の歴史は生き残りのために多くの変化をしてきました。先日発表した著書『土俵の矛盾 大相撲 混沌の中の真実』(実業之日本社)でも少し触れていますが、角界が今、外からどう見られているのかを意識しないと、角界自体の成長が止まったままになります。
 相撲には1400年という伝統がありますが、時代についていくために変えなくてはいけない部分でも 「これは伝統だから」 と従来の在り方に固執して変えないということが、角界ではままあります。しかし、どの業界でも、老舗の店で旧態依然としたスタンスをとり続けているところは経営危機に瀕していたり、つぶれてしまったりしている。「伝統」 というのは便利な言葉で、言い訳の根拠になってしまうこともある。伝統を守るという 「守勢」 と発展させる 「攻勢」 は表裏一体だと思います。小兵が生意気なことを言うかもしれませんが、円高や震災などで逆境を迎えた今の時代だからこそ、それを乗り越えられる 「見方」 を、多くの人に実行してほしいですね。
 
 
 
 

(インタビュー・文 新田哲嗣 / 写真 Nori)






 
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