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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

勝ちに貪欲なアスリートの
闘うためのモチベーション

 
 
かつての若手ピッチャーからベテラン投手へ。その成長の過程での一つ一つの発見が、野球人・上原浩治を育ててきた。多くの経験を積み重ねる中で、勝利と敗北の狭間がどこにあるのかもわかってきた。あとは自分を信じて今を生きるのみだ。ここに至って、上原選手が最も大事にするようになった己の武器とは、何だろうか。
 
 

絶対に自分を曲げるな!

 
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 僕の野球人としての武器は、自分を曲げなかったことですね。強い意志を持ち、クリアできる目標をいっぱい立てる。明日はこれを成し遂げようとか。それが達成できたら、また次に行く。その繰り返しなんですよ。
 目標を立てたら、そのための練習も必要です。僕は大学のとき、わりと制約のない環境で野球ができていました。他にはもっと厳しい大学もあって、練習メニューがかっちり決められて、まるで軍隊みたいに動いている。でも僕のいたチームは、練習メニューは皆自分で作って、わりと目の前の課題や目標をクリアするための練習に取り組んでいました。それで力が付いた経験があるから、僕はプロでも、チームから課せられるメニュー以外は自己流で練習して目標を追いかけていました。「自分にはこのやり方があっているんだ」 と信じて。それで成績を出せば周囲も変わってきます。どんな環境でも、いい意味で自分を曲げずにいるということは、周囲にもいい影響を与えられるのだと思いますよ。
 だから、シーズンが始まる前によく 「上原さん、今年は何勝ですか」 と聞かれますが、僕は具体的な数字をあげたことはないんです。一個一個投げて、次の試合勝てるようにがんばります、としか。あまりに先すぎる目標ではなく、目先の目標に重きを置いています。
 チームから決められたこと以外にどこまで努力するかは、やりすぎてもいけません。僕は少し前まで、頭一つ抜けるには人と同じメニューで練習しても足らないと考えていました。人より多くやらないと追いつけないし、追い越せないと思って。だけど、自分の野球人生を振り返ってみると、その気持ちに体がついていかないときもあるんです。つまり、ケガですね。オフに体を苛めすぎるのが原因ですが、それに気付いてからは、最大限の努力を最小限でやろうと決めました。どこまでがむしゃらに自分を苛めて、どこで肩の力を抜くかの自己判断が求められますが、いずれにしろ、バランスをとることが大事です。そこでも、周囲に流されず、自分の感覚を信じて、曲げないことが武器になります。
 
 
 
日本とアメリカ、2つのステージを経験した上原選手。日本を代表する一流プレーヤーだけに、1年でも長く現役を続け、活躍を続けてほしい。だが、キャリアには必ず終わりが来る。アスリートにはなおさら、その時は一般よりも早く訪れる。上原選手は、一流の野球選手というキャリアを経て、これからの展望をどのように思い描いているのだろうか?
 
 

経験は人生の財産

 
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1月7日、神宮外苑室内球場で行なわれた親子野球教室の様子。少年
たちの力投に、上原選手の指導にも熱が入る (主催:昭和50年会) 
 もちろんできるところまでは選手でやるつもりですよ(笑)。 ただ、ありがたい環境にいるのでそれを次に生かそうとは考えています。以前読んだ本にすごく印象的な言葉があって。「経験は人生の財産になる」 という言葉なんですが、それがずっと心に残っている。いろんな選択肢を持つためにはいろんな経験が必要です。僕は選手として様々な指導者と関わってきましたが、指導者になるとすれば、日本とアメリカの双方のいいところをとって教えていきたいと思っています。
 今はいろんな日本人選手がアメリカに来ています。どんどん来ればいいと思う。挑戦する場所とチャンスがあるなら、挑戦したほうがいいです。日本球界しか経験がない人にメジャーリーグのことを話されても、「なんでメジャーのことがわかるの?」と不思議に思ってしまうんですよ。メジャーを経験してない解説者がメジャーを語ることにはどうしても違和感を感じます。その人たちも勉強しているとは思いますが、僕はそうじゃなく、自分の経験したことを語っていきたい。
 
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「こんなふうに体を使うんだよ」――現役の大リーガーの直接指導は
子供たちに強烈な印象を与えたようだ
 もっとも、自分の経験が将来どういう形で表に出てくるかはわかりません。解説者、指導者、その他いろんな道がありますからね。ただ、僕は国の代表としても海外で多くの経験をさせてもらいましたから、言葉の壁や食事面での苦労にいかに対処するかといったセルフコントロールの部分は、何かの形で確実に出していくと思います。
 笑い話ですけどね、アメリカはレストランで食事をしたときに、皿がそのまま放置されているんです。日本だったら、「お下げします」 とすぐに片付けるでしょう? でも片付けないし、片付けをお願いしたら 「どうして私がやらなくちゃいけないのか」 みたいな憮然とした表情で片付けはじめる。でも、誰も怒らないんですよ。基準が全然違うんです。
 この類の経験の積み重ねは、僕の中で大きいですね。「なるようになる」 という考え方もそこから生まれました。ずっと日本にいてメジャーに行かなかったら、こんな気付きも得られなかったかもしれない。これからの現役生活でどんな未知の経験ができるか、またそれを球界や、その他、自分が関与する場面にどう還元していけるかといった楽しみも、僕のモチベーションになっています。


 

(インタビュー・文 新田哲嗣 / 写真 スズキ シンノスケ)
 

 
  オフィシャルサイト  
http://www.koji-uehara.net/
  所属事務所  
株式会社 スポーツカンパニー
http://sportscompany.co.jp
 
 
 
 

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