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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

飛躍中の芸能プロを支える
人間力重視の人材育成術

 
 

人間関係の根本をなすものの正体

 
―― まずコンセプトを作る。そのうえで生産ラインに乗せれば、出来合いの既製品であれば、広告の影響などがない限りその商品の根本的な価値が激しく上下することはあまりない。しかし、アーティストもタレントも生身の人間だ。人間を扱う以上、「生産・開発」 という言葉の使い方はよくないが、彼女たちを 「育成」 し、商品価値を高いまま保持するには、大変な労力が必要ではないか。
 
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 確かにその難しさはあります。極端なことを言えば、手間暇かけて売り出したとしてもたった一度のスキャンダルがあれば、そのタレントの価値は著しく下がります。ほかにも精神的なストレスを感じて肌がボロボロになったりと、芸能の現場では、育成と同時に彼女たちが売れて以降のケアも、かなり重要になりますね。
 ただ、何より難しいのは、本人がこちらの声を聞いてくれるかどうかなんです。時計だったり靴のような 「製品」 であれば、研磨したり加工したりすることで輝きを取り戻すことができるかもしれない。しかし、相手が人間である以上、本人の意思で輝きを保ち続けられるようにもっていかなくては、本当の魅力は保てないんですよ。そこで、相手との信頼関係が重要になってくる。
 私がポイントとしているのは 「いいライバルを作る」 「自分の感覚を大事にする」 「約束を守る」 ということですね。Assassin であれば、まずメンバー同士に良い意味でのライバル関係を意識させます。たとえばプロデュースチームのスタッフを審査員にし、採点形式のダンススキル発表会を行うことがあります。そこで点数をつけてポジティブな競争意識を高めるわけですが、たとえば90点と89点という僅差で1位と2位が決まったとします。点数だけ見ると、わずかに1点差なのですが、毎日レッスンを見ていると数字に表れない表現力の違いがあったりするものなんですね。そこをきちんと 「前評判や肩書にとらわれず、自分の感覚で見る」 という姿勢を持って、本人と会話をしていくことによって、「ちゃんと見て評価してくれている」 という安心感につながるんです。
 たとえば、どれだけテレビが進化してきてデジタル放送の時代に入りつつあっても、今のテレビは料理番組で出される料理の匂いまでは表現できませんよね。でも、その料理の本当の魅力は匂いも足して、自分の五感を経て初めて総合的にわかるものでしょう? 現場でその 「匂い」 を直接感じ取る。これは重要です。
 そして最後に、「約束を守る」。仮に今までそれほど評価が高くなかった子でも、「これだけできたら、この曲でソロパートを任せるよ」 など、きちんとチャンスを与える約束をし、本人が目標を達成したらそれを守るということが重要です。
 ここで話していることは、芸能プロの社長である新堂冬樹と13歳平均の女の子たちとの一例ですが、実は大人同士も同じなんですよ。この関係を恋人、友人関係、同僚、上司部下に置き換えても、まったく違和感はないでしょう? 要は愛情です。愛情を持って接することです。それがあれば、今私が行っていることは実は当たり前のことなんですよ。
 
 

現代のコミュニケーションの弱点とは

 
―― 「愛情を持って接する」。多くのタレントを育成する新堂氏の言葉の裏には、一般企業で見られがちな希薄な人間関係・・・・・・ つまり現在のコミュニケーションの弱点も見え隠れしている。たとえばメールでのコミュニケーション。新堂氏は、作家という視点もふまえて、現在の人間関係とコミュニケーションのあり方を次のように指摘する。
 
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 メールというのは本当に怖いものだと思っているんです、私は。たとえば 「何々してください」 とお願いのメールを打ったとします。でも、これはともすればすごく冷たい言葉に見えなくもない。小説ならば、ひとつひとつの登場人物のニュアンスを伝えるために心理描写などを詳しく書けます。反対に、その心理描写がなければ登場人物たちの心情が読者に伝わりませんよね。
 しかし、メールの文章というのは無味乾燥で、一方的に突き放したように見えるものなんです。私も、ありきたりの業務連絡などはメールでやりますが、スタッフやタレントからの相談めいた内容が書かれていれば、できるだけ会うか、少なくとも電話でコールバックするようにしています。
 先ほどの 「匂い」 の話と同様ですが、相手の意思をきちんとキャッチできなければ、重大なミスを犯してしまうこともあるわけです。話すトーン、テンポ・・・・・・ 会うのであれば身振り手振り、顔つきなんかを見ながら相手の心情を拾っていく。さらには相手から相談ごとがなくても、異変を感じたら 「どうしたの?」 「何か困っている?」 などと積極的に声をかけます。それで相手が答えなくてもいいんですよ。声をかけられたという事実が安心感につながれば。
 商品であるタレントにせよ、その商品を磨き売っていくスタッフにせよ、そこは人間同士。もっと極論を言うと、人間を扱う芸能業界だからこそ、「人間対人間」 の関係性が商品価値や企業の躍進に大きくつながることが、浮き彫りになっているのかもしれませんね。
 
 
 
 

(インタビュー・文 新田哲嗣 / 写真 スズキ シンノスケ)

 

 
 
 会社概要  
株式会社新堂プロ
 所在地  
東京都渋谷区宇田川町6-20 パークアクシス渋谷神南 8F
 オフィシャルサイト  
http://ameblo.jp/shindo-fuyuki/ (アメブロ) 
 
 
 
 

 

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