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新型インフルエンザ対策を行った企業は9割
他のリスクへの転用・拡張は困難

 
 2010年2月現在、日本における新型インフルエンザの流行は終息したように見える。今後の流行は予断を許さないが、新型インフルエンザ対策がはずみになって、企業のBCPに対する関心は高まったように思える。
 BCP関連のコンサルティング会社・インターリスク総研が日本国内の上場企業を対象に行なった調査によると、2009年の2月の新型インフルエンザ発生前の段階では、3社に1社しか対応する予定がないと回答していたが、発生後の8月の段階では、9割を超える企業が新型インフルエンザ対策に取り組んでいたという。激的な変化だと言えるだろう。
 日本のBCPの草分け的存在で、BCPやBS25999(BCM=事業継続マネジメントの国際規格)の認定取得コンサルティングを行っている㈱リスクマネッジ社長の森直樹氏は、日本における企業の新型インフルエンザ対策とBCP策定の状況を次のように語る。
 
 「金融やライフラインなど、事業がストップすることで国民生活に重大な影響を及ぼす企業は、新型インフルエンザの発生以前から積極的にBCP策定に取り組んできました。大企業に限れば、新型インフルエンザの発生後に、新型インフルエンザに特化したBCPを策定する企業が急速に増え、8~9割の企業が何らかの対策をとったと思われます。ただ、多くの場合、業務が継続できなくなると会社が危うくなるという危機感から急遽取り入れたもので、将来、その仕組みを拡張してもあらゆるリスクに対応できるといったものではありません。新型インフルエンザと地震では対応が違いますから、新型インフルエンザ対策を他のリスク対策に転用したり、拡張して使うわけにはいかないのです」
 
 BCPを策定するとき、すべてのリスクを想定することは不可能である。どんなリスクが生じたときにどの業務が一番打撃を受けるかを想定し、地震、水害、IT障害などもっとも影響の大きいリスクを特定し、対策を考えるのだ。そのリスクも、想定したシナリオ通りに起こるとは限らない。今回は、たまたますべての企業に共通のリスクとなる新型インフルエンザが起こった。強毒性を想定していた企業は肩すかしをくってしまったが、対策を考えていなかった企業は弱毒性であったためにどうにか対応することができたのだ。
 
 

大企業でもBCPの策定は2割
中小企業でも関心は高まっているが・・・

 
 では、日本における“本来の”BCPの策定状況はどうなっているのだろう。
森氏によると、上場企業においては、策定ずみが2割、残りのほとんどが、株主総会にマニュアルだけ間に合わせたい、BS25999関連の文書だけそろえたい、IT部門だけ取り組みたいといった状況で、十分に機能するBCPになっていないという。
 
 「BCPの模擬訓練をやったとしても、滞りなく適用が確認できるのは100社に満たないでしょう。グローバル企業などは、コンプライアンスの問題や海外の取引先企業からの要請でやむを得ず取り組まなければならないので策定が進むのですが、上場企業でさえこのような状況ですから、あとは推して知るべし。中堅以下の企業、新興企業やベンチャー企業に至ってはほとんど手がつけられていません。言葉は知っているけれどどこから手をつけていいか分からない、どこまでやればいいか分からない、お金がかかるのではないかと手をこまねいているのが現状です。現時点では、BCP策定は、経営トップの今後数年間のロードマップの中に入っていないというのが実情です」
 
 森氏の実感は、前回の最後に引用した内閣府の「企業の事業継続及び防災の取り組みに関する実態調査」(4979社、2008年1月実施)の内容にぴったり符合する。同調査によると、大企業の19%が策定ずみ、策定中が16%、策定の予定が29%だった。しかし、中堅企業は、策定ずみが12%、策定中3%、策定予定が13%。BCPを積極的に考えているのは全体の3割にしか及ばなかった。しかも、「BCPを知らない」が61%にも及んでいたのだ。
 
 

自然災害、火災、事故、テロ・・・・
こんなにある企業を取り巻くリスク

 
 このような状況に危機感を抱いてか、国や地方自治体はBCP策定のためのさまざまなガイドラインを出している。日本の企業の99.7%は中小企業で、数字の上では日本経済を支えているのは中小企業と言ってもいい。国も自治体も真剣にならざるを得ないのだ。
 例えば、経済産業省からは「事業継続計計画策定ガイドブック」、内閣府からは「事業継続計画ガイドライン」、中小企業庁からは「中小企業BCP策定運用指針」や「中小企業BCPガイド」など。国ではないが、特定営利活動法人・事業継続推進機構(BCAO)からは「企業を守る災害対策・事業継続のすすめ」というガイドラインが出されている。東京都や阪神淡路大震災で被災した神戸市など、全国の地方自治体もBCP策定をすすめるさまざまなガイドラインやマニュアルを出している。 
 
 
 

古俣愼吾 BCP 事業継続計画

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