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ビジネス 佐藤勝人の「儲けてみっぺ」  vol.17 サービスと対価とOMOTENASHIの話 佐藤勝人の「儲けてみっぺ」 商業経営コンサルタント/サトーカメラ代表取締役副社長

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皆さんこんにちは。佐藤勝人です。去年の5月に始まったこの連載も次で1年と半年。そのタイミングでリニューアルする話を編集部からもらいました。タイトルを変えて中身も一新するようで、具体的にはまだ企画中だけど、おもしろいものにしたいね。私のほうもこの1~2年でかなり環境が変わったから、新シリーズではその辺りも含めて伝えられればと思っています。予定では11月から。楽しみにしていてください。
 
さて、では今月はこの話題から。パソコン販売、修理、サポート業のPCデポの一件だ。
 

サービスを売るビジネスではありうる話

 
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北京〜上海5時間の長距離移動。中国の新幹線はカフェふうで快適
日経新聞の記事によると、80歳過ぎの高齢のお客さんが月額会員サポートの契約解除を申し出たところ高額な解約料を請求された。条件を下げるよう店側と交渉した息子が事の顛末をネットに載せ、それが拡散したのがきっかけだ。記者が取材した――「首都圏の複数の店舗で声を拾った」とあるのがどこまで実態をとらえる取材だったかわからないが――限りでは、当該店舗以外でも同じような不満がいくつか聞かれたという。いっぽうで、おそらく同じ取材中の声だろうが、「やっぱり頼りになるから会員は続ける」「パソコンが壊れたときに助けてもらった」といった肯定的な評価もあったようだ。
 
まず思うのは、私も経営者の端くれとしてこれは保証できることで、経営陣はこんな次元の低いことを率先してやれとは絶対に言ってないはずだ。ただ、モノが売れない時代に一番利益が出せる商材はサービスだから、現場の、例えば店長クラスの勉強熱心な社員が営業上の工夫のつもりであるときこれを始めて、それが現場レベルでシェアされて、そのうち別の店には間違った解釈で広まってしまったということはありうる。PCデポの場合も実情はそんなところだったんじゃないかなぁ。
 
もちろん、褒められた話ではない。解約料10万円というのはいかにも高額だし、この例のように一人暮らしの老人に10台分のサポートを売ったのはやりすぎだろう。また、店舗を監督管理する部門もあるだろうにそれが機能しなかった点も問題だと思う。
 
しかし、実際に10台分サポートが欲しいお客もいるからそういうプランも組めるようにしてあるわけで、であれば、熱心な店員が少しでも売り上げをあげるために契約してもらえそうなギリギリの線をお客に交渉するのはありうる話だ。その逆で、店員がお客の言われた通りに何でもハイハイ聞く場合もある。いずれにしても、後からやり過ぎを指摘されれば、きちんとお詫びして改めればいい。本部も体制の見直しなどの対策を講じればいい。あえて言えば、この件はそれだけの話だと思う。
 
 

サービスが商材のメインになった社会で

 
それよりも私が懸念するのは、例えば1人の警察官が痴漢をしたら世の警察官全員を悪者扱いするような、いかにも日本的な反応で世間が捉えることだ。今は「コンプライアンス」と一言言えばどんな企業も罰することができる。すぐ全体の問題にされ、実際はそうでなくても組織ぐるみで意図的にやっていた話にされ、社会的に抹殺されてしまう。PCデポがこれからどうなるかわからない。でも仮にそんなことで一私企業を潰してしまったら、結局割を食うのはサポートサービスで実際に助かっている大多数のお客さんたちだ。また、「サポート系は怖いから」というので同業社が撤退した後に頼る先がなくなった一般のパソコン初心者たちだ。そんな結末でいいのか?
 
今はモノに替わってコトやサービスが世の中の商材の大きな割合を占める時代だ。かつてモノが商材のメインだった時代には、パソコンみたいに新しい技術の商品はサポートサービスが無料だった。何かあれば街の電器店さんがいつでもタダで見に来てくれて、その代わりに定価で売るし、我々も定価で買っていた。やがてモノが行き渡り、定価ではお客さんが買わなくなると、売る側は必然的に本体とサポートを切り離して売るようになり、ついに収益の割合が逆転した。でも、日本人は戦後の製造業主体の時代に「形のないモノは価値がない。サービスはタダ」と刷り込まれたから、その逆転に感覚がついていってない。
 
それに、そもそもサービスを売るビジネスは少し行き過ぎるぐらいではじめて成り立つ面がある。掛け捨て型の保険商品なんかその典型だろう。サービスは売る側も買う側も歯止めが難しい。だからこそ先進諸国は欧米型の契約社会を標準にしているわけで、今回の件も炎上のネタにして済ますより、コトやサービスを売ったり買ったりする感覚を磨くきっかけにするほうが、売る側買う側双方にとって生産的じゃないかと思うんだが、どうだろう。
 
 

OMOTENASHIはいつ生まれるか

 
サービスつながりでこの話題も。経済産業省が「おもてなし規格認証」という制度を始めたそうだ。「顧客満足」「従業員満足」「地域社会との共生」「事業の継続・発展性」の4つの要素を評価して、認証されたら店頭にステッカーを貼って客にアピールできる。東京五輪に向けてインバウンド客も増えてきたし、国としては例の「オ・モ・テ・ナ・シ」を売り出したいんだろうな。
 
でも、悪いけど、おもてなし程度のサービスは、そこそこのお金を払う店や宿に行けばどこの国でもやってるからね。むしろヨーロッパやアメリカでは「人的サービス」という概念が確立しているんです。やる気ゼロの個人商店じゃない限り、どんな店でも店員は「こんにちは。調子どう?」みたいな感じでちゃんとそばに来て、客と目を合わせて歓迎するんです。日本みたいに客の顔も見ずに「らっしゃあーーい!」って怒鳴って案内も大声で怒鳴るなんて、向こうでは考えられないからね。店員がトイレに行くのだって、日本では裏を通って人目を避けるように行かせるけど、欧米はわざと店内のフロアを通らせるんです。なぜって、途中で客と行き会ってちょっとした会話で気持よくさせることまで含めてその店のサービスだから。歓待や歓迎を日本みたいに心の事柄にしないんだ。だからサービスがちゃんと商材として成立するし、客はチップなどで対価を払う文化が育つわけだ。
 
そこを飛ばして規格化しても日本人のサービスについての概念は見直されないよ。それよりは、日本人自身がもっと外に出て、世界のサービスを知ろうよ。そうやって外からおもてなしを見直した時こそ、世界のどの人種・民族にも通用するOMOTENASHIが生まれるんだと思います。
 
 
 
佐藤勝人の「儲けてみっぺ」
vol.17  サービスと対価とOMOTENASHIの話

 著者プロフィール  

佐藤 勝人 Katsuhito Sato

サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長

 経 歴  

栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万?1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

 オフィシャルサイト 

https://jspl.co.jp/

 オフィシャルフェイスブック 

https://www.facebook.com/katsuhito.sato.3?fref=ts

 サトーカメラオフィシャルサイト 

http://satocame.com/

 YouTube公式チャンネル 

https://www.youtube.com/channel/UCIQ9ZqkdLveVDy9I91cDSZA (サトーカメラch)

https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw (佐藤勝人)

 
(2016.9.14)
 
 
 
 

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