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コラム 今、かっこいいビジネスパーソンとは vol.1 ベタな現実に右往左往しないこと 今、かっこいいビジネスパーソンとは 首都大学東京教授/社会学博士

コラム

今、“かっこいい”ビジネスパーソンとは
第1回 ベタな現実に右往左往しないこと

 

「ホンネとタテマエ」という共通認識が崩れた社会

 
 最近の若い人たちにそういう生き方をする人が少なくなってきているのは、社会の問題でもあります。
古くから日本では、「法律はタテマエとして、ホンネでいきましょう」という、共同体の共通前提が優先しました。法治国家の大義に照らせば逸脱だったりするのですが、「それはそれで大目に見ようじゃないか。法がどうこうよりも共同体がちゃんと回るかどうかが大事だよ」というわけです。
 「共同体的温情主義」といいますが、犯罪者が出所して郷土のムラに帰って来たら、やったことはいけないに決まっていても、それはそれとして元犯罪者をムラに包摂したわけです。むろん差別はするのですがね。
かつての日本社会におけるホンネとは、法や市民社会のタテマエから距離をとった生き方を可能にする、別の共通前提でした。別の言い方をすれば、社会が、二重底だったと言えるでしょう。一重目の底を突き抜けても、二重目の底に受けとめてもらえたわけです。
 
 ところが、明治以来の近代化で、共同体のあり方が変わり、タテマエとホンネの意味が変わります。共同体が空洞化するとお互いのホンネが見えなくなります。すると「タテマエの裏でウマいことやっているやつがいるんじゃないか?」という疑心暗鬼が広がります。
 タテマエの裏にあるはずのホンネが見えない。すると、人々は「抜け駆けは許さないぞ」という方向へ進みます。その結果、法など信じていないクセに、法の厳格な適用を要求する方向に進みます。人の足を引っ張ったり、枝葉末節を攻め立てる道具として、法を使うようになるのです。
 ホンネとタテマエをうまく使い分けて生きる、ホンネを共有した人たちが「旧住民」だとすると、今述べた疑心暗鬼な生き方をする人たちが「新住民」に当たります。「旧住民」「新住民」という言葉は、単に地域に住みはじめたのが古いか新しいかではないのです。
 
 両者を比べると、新住民のほうが神経質で、犯罪に対する重罰化要求も強い。学校の校則についても厳格化を主張します。数十年前なら、若い世代の親ほど自由かつ柔軟だという通念がありましたが、最近になるにつれ、若い親ほど神経質で杓子定規になりました。
 つまり、若い世代ほど、疑心暗鬼で常に不安にかられたヘタレな親が多いのです。2ちゃんねるにあれこれ書き込んで噴きあがるような馬鹿な親たちを想像してみればいいでしょう。子供たちから見ればリスペクトに値しない存在です。
 
 僕が子供のころは、「夏休みは親の言うことを聞いてちゃんと勉強しろよ」と言いながらウインクするような「話せる先生」がいました。学校のタテマエはそれとして、夏休みの子供たちには他にやらなきゃいけないことがあるのを知っていたのです。それは勉強なんかではなくて、「ちゃんとした大人」になるための経験を積むことです。
 お巡り(警察)につかまるようなことも含めて、立派な大人になるためのイニシエーションになっていました。そうした逸脱に対して、地域の大人たちが共通認識のもとに鷹揚な構えをとっていたのです。
 ところが、新住民の時代になると、親からも近隣の大人たちもからそうした鷹揚な構えが削り取られ、かわりに些細な逸脱に一喜一憂するようになります。子供の喧嘩があると翔んできて「やめなさい!」と叫ぶような馬鹿な親たちを想像すればいいでしょう。
 
 僕は昔、花見のたびに代々木公園で焚き火をしました。ちなみに20年前くらい前までは当たり前でした。ある年、どこよりも大きな焚き火をやっていたら、公園内をパトカーがやってきて、「公園内での焚き火は禁じられています。エー、君たち、ちょいと火が大きすぎやしないかい?」と(笑)。風俗営業の取り締まりにせよ、以前の警察は「違反」を取り締まるのでなく、「やりすぎ」を取り締まったのです。今はそんなお巡りはいない。逸脱を見逃すと、神経質な新住民から「警察は何をやってる!」と文句が来ますからね。
 
 でも、法を守りさえすれば、社会がうまく回るのか。日本はそういう社会じゃない。社会の共通感覚や共通前提があることのほうが、はるかに重要です。そのことを日本人はホモジニアスだ(同質性が高い)と呼んできたわけです。ところがそうした共通感覚が消えてきて、何かというと杓子定規に法律を持ち出したり、警察を呼び出したりするようになったわけです。昔の基準でいえば「みっともない」ことです。
 
 

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