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現在、MUJIGRAMを読まずに店舗のスタッフが本部に質問しても、「それはMUJIGRAMで確認してください」と突き放します。
――第二章 決まったことを、決まったとおり、キチンとやる より
 
 
 
 「人には二つのタイプしかいない。自分のことが好きな人と、嫌いな人だ。」
 ちょっと気を利かせば誰でも言えそうな警句から始めるのは、本書が昨年夏の発売以来10万部を超える息の長いベストセラーになっている秘密がこの一節からひもとけるように思うからだ。キーワードは〈自己投影〉。結論から先に言えば、「無印良品」のトップが書いたこの本は、セットで読むべき今夏発売の『無印良品の、人の育て方』とあわせ、“やり方”や“仕組み”を人ではなく組織につけて事業を発展させたい全ての経営者にとり、大いにヒントになる良書である。
 
 
 「無印良品」は言わずと知れた生活雑貨の総合ブランド。スーパーチェーンの西友から発祥し、製品の企画を小売側が行う、いわゆるプライベートブランドの先駆けでもある。2013年の売上高は2,206億円強、経常利益は230億円。しかし、そんな名門も、本書の著者である良品計画会長の松井忠三氏が社長に就任した2001年には、38億円の赤字を出していた。松井氏はその原因を、「ブランドに革新性がなくなっていたこと」と、「経験至上主義の弊で仕事のスキルやノウハウが人につき、全社共有されていないこと」に見てとり、社内改革を断行する。取り組んだのは店舗スタッフ用の「MUJIGRAM」と、本部社員用の「業務基準書」の制定。両方とも、業務の“やり方”や“仕組み”を事細かに決めた、いわゆるマニュアルである。「無印は仕事の9割をマニュアルで回している」。これが本書のタイトルの意味である。
 
 「マニュアルならうちにもあるぞ?」――御社のそのマニュアルは何ページだろう。MUJIGRAMは2000ページだ。業務基準書にいたっては6608ページだ。無印では全スタッフ、全社員がこの2つのマニュアルに沿って仕事をする。「そんなに何でも標準化したら個人の裁量が減って、士気が下がるのでは?」――むしろ上がる。(裁量が減らないことについては、『人の育て方』のほうで紹介される同社の海外赴任のさせ方を参照。)士気が上がるのは、マニュアルはそれを使う当人たちにつくってもらうからだ。著者いわく、「マニュアルに沿った仕事をすると受身になるといわれますが、それは他人がつくったマニュアルをそのままなぞっているからです。自分のマニュアルをつくれば、自分の仕事を俯瞰できるので、問題点や課題を見つけられます」。“自分の”マニュアル・・・ここがポイントだ。同じ箇所(p199)で著者は「モチベーションを維持するために役立つのが、マニュアルです」とも語っている。マニュアルでモチベーションを維持? どういうこと?
 
 それを考える前に、冒頭の警句を思い出してほしい。自分のことが好きな人と嫌いな人。読者諸兄はどちらか。
 見分け方は簡単だ。机にノートを開いて、あるいはパソコンのモニターに向かって、実際にマニュアルをつくっている自分を想像してみるのだ。文章で、図で、表でetc・・・普段自分は業務をどう進め、どの工程でどんな留意点を設けているか。その業務にはどんな障害が想定され、狙いどおり回避して業務を遂行できたあかつきにはどんな快感をおぼえるか。具体的にイメージし、項目にまとめ、注釈をつけ、整理していく――その想像の中で、一連の作業にいそしむ自分が、「ぐっふっふ・・・」と思わずニヤケ笑いをしていたら、まちがいなく前者だ。そうやってつくるマニュアルには〈自己投影〉がされている。“こんな自分が好き”が見える化されている。沈んだり悩んだりしても、マニュアルを開けばそのたびに、大好きな自分(たち)に出会えるのだ。それはモチベーションも上がるに違いない。
 
 
 私たちはいつのまに、「仕事で自己実現する」と簡単に言うようになったのだろう。実はそれはとてもハードルの高い考え方かもしれない。まだないものを、仕事を通じて、これからつくっていかなければならないからだ。それよりも、もう少し視線を手前に置いて、今ある仕事に〈自己投影〉するのはどうだろう。意識的な投影は客観視を伴うゆえに(=俯瞰)、業務に“淫する”弊はむしろ少なく、自然体で仕事に熱中することができる。そしてそのしなやかさはそのまま「無印良品」のブランドイメージに重なる――とまで言うのは言いすぎか。しかし、改革の際に著者が最も心強かったのは「うちのスタッフはもともと無印ファンだった人が多い」ことだったというのは、なんとも素敵なエピソードではないか。
 
 

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『無印良品は、仕組みが9割』
著者 松井忠三
株式会社KADOKAWA
2013/7/10 初版発行
ISBN 9784041104996
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価格 本体1400円

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(2014.10.29)
 
 
 
 

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