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小売業はなくなる?

 
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ゆう / PIXTA
今、さまざまな商品やサービスが「サブスクリプションモデル」(月額課金ないし期間定額課金制)で販売されるようになっている。AVコンテンツや家事代行サービスなどのような形のないものから先に普及しているが、これからは短期あるいは使い切りで消費してしまう消費財(飲食料品や日用品)に関してもどんどんサブスク化が進むだろう。
 
加えてメーカーでも「ダイレクト・トゥー・コンシューマー」(DtoCあるいはD2C)の動きが出てきているようだ。〔製造→卸し→買い付け→販売〕のプロセスのうち、〔卸し→買い付け〕の部分が抜かされるようになってきたのである。全プロセスを自社でまかなうメーカーの場合も、デフレで価格下落圧力が働き続ける――しかも圧力が働くタイミングは年々早まる――状況下では余剰在庫が生じないオンデマンド生産販売にシフトせざるを得ないだろうから、〔卸し→買い付け〕の部分はますます減っていくだろう。
 
これらの動きが相まったとき、現在の意味合いでいわれる小売業は長期的にはなくなるのではないか。少なくとも劇的に変化するのではないか。その可能性を考えてみるのが本稿の趣旨である。
 
 

IoT時代に起きる変化

 
小売りには「流通」(ブツを最終消費者の目の前に現れさせる)の要素と「商売」(仕入れ値との差額を利益にする)の要素があるが、前者は急速に宅配業がまかないつつある。メーカーはコスト的に見合わないから消費者と直で付き合ってこなかっただけで、こと一般消費者向けの商品に関しては、IoTによるオンデマンド生産販売が主流になれば下記のような変化が起きるのではないか。
 
①ニーズに対する商品の過不足を吸収するバッファー機能としての卸業が不要になる
②倉庫業は消費者集積地での組み立て製造業と合併する。産業ロボットと3Dプリンターも活用
③物流業は消費者集積地までの原材料の幹線輸送と完成品の個人宅配(ラストワンマイル)に二極化する
 
なお、現在でもアナログで――利用者の指で――デマンド情報を発信させているのがAmazonダッシュである。IoTが一般消費財にも普及してチップが信号を発するようになれば“指”がいらなくなる点が未来と違うだけだ。オンデマンド生産販売は製造販売元にとっては「必要生産量の精緻な把握」のためのもので、例えばユーザーの家にその商品が残り何個あるかをIoTでリアルタイムで検知――予測ではなく検知――するようになれば、かなり実現するだろう。
 
 

耐久財を消費財のように●●●●

 
そう考えると、シェア経済についても通常と違った解釈ができる。まず、定常経済下では新規のユーザーを獲得するよりも既存ユーザーをつなぎとめることのほうが重要になる。費用対効果が高く、利益になるからだ。また、ユーザーの総数が増えない社会状況では新規に〔製造→消費〕のサイクル――ここでいう消費は厳密には後述する消尽――を生じさせなくても利益を生めるビジネスが相対的に有利になる。
 
ということは、シェア経済は「耐久財を消費財のように●●●●利用するスタイル」であり、この経済モデルを成り立たせるために同一商品に複数ユーザーを紐付けているのだと見ることもできる。複数ユーザーで共同利用することが先ではないのかもしれないのだ。
 
環境への貢献といった社会的側面からシェア経済を評価する人には受け入れがたい理解だろうが、はたしてそうだとすれば、自動車など耐久性がある商品は消費財的な利用スタイルへ速やかに移行させたほうがビジネス的には良く、移行をいち早く、最初に完了させたサプライヤーがそのアイテムに関しての独占的優位を得る。この発想は企業には魅力的に映るのではないか。
 
 

サブスクリプションモデル成功の鍵

 
サブスクリプションモデルは新しい形態だけあって、まだ決まった分類の仕方がないようだ。目にしたものでは定期的に商品が送られてくる「消耗型」と、同じアイテムで毎回商品が変わる「サプライズ型」という分け方があるが、本稿の観点からは、一定期間利用できる半耐久消費財を扱うか使い切りの消費財を扱うかで分けることを提案したい。前者の典型がファッション、後者の典型が飲食料品だ。現状両者は「非耐久消費財」と一括りにされることが多いが、本来後者は「消尽財」とでも呼びたいところである。
 
消尽財をDtoCで売る際に鍵になるのがフリーミアム戦略だ。IoT時代のサブスクリプションモデルでは初回の商品と一緒に残数検知用の端末を無料でリースして居住空間に置いてもらい、以降の補充の的確さで他社に差をつける手法が出てくるだろう。あるいは複数品目を扱う総合メーカーなら専用端末1台で全品目を検知できるようにしてニーズを囲い込もうとするかもしれない。いずれにしても事後回収型のビジネスは客の生活シーンに食い込むことが最初のポイントだから、導入は限りなく無料になる。つまり、フリーミアム戦略である。
 
そして、ここまでくると逆の発想も見えてくる。むしろ真実は、「必要量を精緻に把握することではなく、実用上の必要量を超えて利用・消費させることがサブスクリプションモデル成功の鍵」であり、「必要量を超えて利用・消費させやすいものほどサブスクリプションモデルと相性が良い」のではないか?
 
実用上の必要量・回数を超えやすい商品の条件は、「たくさん持っていても気持ちの負担にならない」「返却するのに物理的な手間がかかり、つい持ち続けてしまう」の2点が差し当たって思い付く。また、必要以上に消費してもらうためには実用から趣味へ利用目的をシフトさせることが前提になるが、これは言い換えるなら、そのための“仕掛け”を組み込みやすい商材ほどサブスクリプションモデルと相性が良いということでもある。
 
 

触媒としての小売業へ

 
サブスク化、DtoC、それらを支えるインフラとしての個人宅配。これらが合わさったとき、小売りはどこで役割を発揮できるだろうか。
 
メーカーは最川上の元締めであり、コストが見合えば消費者と直で付き合ったほうがいいのだから、「流通」の要素は飛ばされる。買い付けがなくなるから仕入れ値との差額を利益にする「商売」の要素も消える。結果、今の意味合いでいわれる小売業はなくなり、消費者の購買行動や利用目的を変えさせる触媒としての役割が残る。前章で触れた“仕掛け”の部分である。
 
さまざまな“仕掛け”が考えられるなかで筆頭がコンシェルジュ型やガイド型のサービスだろう。これから未来に向けて、小売業は純粋なコンシェルジュ業やガイド業になっていくのかもしれない。もしかして、今広まりつつあるインフルエンサーマーケティングのインフルエンサーの部分が、小売業の未来を示唆しているのか。商品より店舗、店舗より個人の魅力が消費者の行動を左右する社会の兆しから、以上の考察を試みた。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2018.9.5)
 
 

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