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マイナンバー制度に起こる何か
~事なかれ主義に流れるなかれ~

 

◆自治体の規模で変わる今後のサービス

 
 マイナンバーの準備はどこまで進んでいるのか。
 自治体では制度に対応するため、住民情報、税、年金、社会保障などに関連した基幹システムの大規模改修が必要となる。規模が大きく独自のクラウドシステムを持っている自治体は、庁内に専門チームを組んで進めている。対して小規模自治体は、周辺自治体との共同クラウドでIT化を進めてきたので、マイナンバーもそのネットワーク上で進めるケースが多い。専属チームも持てず、マネジメントの企画部門も運用をする窓口部門も通常業務をこなしながらの作業だという。
 
 「我々の町でも町長がマイナンバー導入のリーダーシップをとり、全庁一丸となって自主的、積極的に進めています。システム構築もベンダー任せでなく、実際に運用管理にあたる我々も役割を理解しながら、一緒に取り組んでいます。ただそれでも、これからは、自治体の規模や取り組みによってサービスに差が出てくるでしょう。職員数や組織体制、独自利用にかけられるコストなどを考えると、小規模自治体ほど不利ですね」――関東地方の人口1万人規模の自治体のシステム担当者はそうため息をつく。
 
 大規模自治体の例では、人口96万8000人の千葉市は、マイナンバーに図書館の利用カード、印鑑登録証、市民病院の診察券の機能などを紐づけて利便性を高めようとしている。将来的には、予防接種や過去に処方された薬、母子手帳やお薬手帳などの情報を確認できる機能を加えていきたいという。確かに、自治体の規模や取り組み状況によって、サービスの質に違いが出そうだ。
 
 

◆企業は専任者の人件費や外注でコスト数億円?

 
 いっぽう、企業でも税や社会保障関連でマイナンバーを利用するため、総務、人事、経理、情報システム部門などで全社的な対応が進められている。給与の支払いや年末調整なども番号に基づいて行うことになるからだ。
 
 企業は社会保障分野では、健康保険、雇用保険、年金などで提出する書面に従業員のマイナンバーを記入しなければならない。税分野では、税務署に提出する法定調書などにマイナンバーを記載することが義務づけられる。これらに対応するため、従業員からマイナンバーを集め、保管し、帳票などに記入できる体制を整えておく必要がある。それも“適切に”。なぜなら、マイナンバーの情報を従業員が不正に漏えいした場合、雇用した企業も罰せられるからだ。
 
 帝国データバンクの調査によると、マイナンバー制度への対応が完了した企業は0.4%、対応中が18.7%。制度を理解している企業は4割しかない。専任者の人件費やベンダーなどへの外注の費用でマイナンバー対応だけで数億円のコストがかかると想定している企業もある。
 
 

◆年金情報流出、マイナンバーにも影響?

 
 本稿の準備を進めている最中に、日本年金機構のコンピュータから約125万件の個人情報が抜き取られる事件が発生した。マイナンバー制度関連法案が国会で成立する直前に年金情報流出の事態が起きたことで、国会審議への影響を懸念する声が政府内でも出ている。まだマイナンバーが何であるか、理解が進んでいない段階で起きただけに、番号の漏えいや個人情報の不正利用に対する国民の不安も大きいに違いない。
 
 では、マイナンバーは安全なのだろうか。
 内閣府が今年1月に行った世論調査によると、マイナンバー制度での個人情報の扱いで「とくに懸念はない」と答えた人は11.5%にとどまった。それ以外は、「個人情報が漏洩し、プライバシーが侵害される」が32.6%、「マイナンバーや個人情報の不正利用で被害にあう」が32.3%、「個人情報が一元管理され、監視される」が18.2%である。今回と同様の事件が仮に他の先進諸国で起きれば、世論に与える影響は必至だ。実際に、社会保障番号による個人番号制度が導入されている米国では、他人の番号を入手して本人になりすまし、年金を不正に取得する事件が多発しており、イギリスでは共通番号制度そのものの見直しが始まっている。日本での導入はこれからだが、国民の理解が進んでいるとは思えない。番号制度だけが一人歩きするのは危険だ。
 
 年金情報流出事件が引き金になって、多少とも進め方に見直しやテコ入れが入るのか。制度そのものが正念場にさしかかっているはずなのに、これといった動きもなく“粛々と”進んでいきそうなのは、いつもの、この国に特有の「事なかれ主義」のなせる技だろうか。
 
 
 
(ライター 古俣慎吾)
 
 
 
 

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