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「里山資本主義」のすすめ
~マネーに接収されないもう一つの経済システム~

 
 
 たとえば東京の某IT企業は、地方にサテライトオフィスをつくり、「半〇半IT」という仕事のスタイルを提案した(〇には、農業、サーフィン、釣り、サイクリングなどそれぞれがやりたい趣味・生きがいが入る)。社員は地方に住んで、出社前や退社後などに好きなサーフィンや畑仕事ができる。この企業は都内勤務で募集をかけても人が集まらなくて人材採用に苦労していたが、「趣味や生きがいと仕事が両立できる環境を提供する」との姿勢を明確に打ち出したことによって応募者が急増し、業績も大幅にアップした。
 
 働く人全員が世界と戦う経済戦士を目指さなくてもいいという「ダウンシフター」の生活スタイルも、成長志向の天井が見えたのと入れ代わりに価値観の多様性が尊重され、自分らしく生きることが重視されるようになったこれからは、当然「あり」だ。
 
 

2040年に日本から896の「地域」が消える

 
 「里山スタイル」に関心が高まってきたこの5月、日本創成会議(元総務相の増田寛也氏が会長)からショッキングな数字が発表された。現在のペースで地方から大都市への人口流出が続いた場合の、2040年の20~30代女性の数を試算したところ、2010年と比較して出産適齢期の女性が半分以下に減少する自治体が、日本全国で896にも達するというのだ。国全体の出生率を上げても、若者が流出し出産適齢期の女性が減った自治体は、消えてしまうという。つまり、いまは、里山がぎりぎり残っている最後の時代なのだ。 
 日本創成会議は「里山」という言葉こそ使っていないが、地域が消滅しないための対策として、次のようなイメージを考えているようだ。
 
①人や商店の自然な賑わいがある、若者にとって魅力的な街区(会議の表現では「コンパクトな拠点」)をバスや電車などの公共交通およびITなどの情報のネットワークで結ぶ。
②拠点ごとに教育施設などのインフラを集約・整備することで自治体の運用コストを効率化し、住民の生活コスト全般を軽減する。
③それらを通じ、子育てをしながらでも安心して働ける環境を提供していく。
 
 地方という小さい社会であっても、生活に必要な機能を近接させ、システムが回っていく持続可能な街をつくる・・・・これは、里山資本主義の考え方そのものである。
 
 

里山資本主義の都市型としてのスマートシティ

 
 さらに、いま最先端エネルギーシステムとして注目されている「スマートシティ」。これも基本発想は里山資本主義と全く同じという点がおもしろい。
 
 小口の電力を地域の中で効率よく発電・消費し、余ったら蓄電する。電力供給のキャパシティを越えたら、いまいらないものから「スマートグリッド」の技術で自動的にスイッチを切っていく――。たとえばこの7月に千葉県柏市で本格始動した「柏の葉スマートシティ」は、三井不動産がつくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅を中心に約1千億円かけて整備し、太陽光で発電したり、電気を貯めて融通し合えるようにした環境配慮型都市だ。
 12万7000平方メートルの敷地内には高層マンションや商業施設があり、現在5000人が暮らしている。中心街区と商業施設には太陽電池のほか、一般的な家庭用蓄電池の3000倍にあたる容量1万6000kW/hの蓄電池が設置されており、余裕があるときに電気を貯め、平日はオフィス、休日は商業施設、災害時は住宅など、その時々で最も必要な施設に効率的に電気を送ることができる。機能が違う複数の区画をまたいで電力を融通し合える、国内で初めての都市である。
 
 
 これから都市部では、小さくても地域の中でシステムがきちんと回る循環継続型のスマートシティが増えていくことになるだろう。いずれ、電力を融通し合う共同感覚が育った住民どうし、かつて長屋で当たり前だった「しょうゆの貸し借り」と同じことができる人間関係が復活するかもしれない。いっぽうで、里山で地域のつながりに汗を投下して人間的な絆をより深める人も増えてゆくだろう。
 不確実なこれからの時代をどう生きるか、「里山資本主義」の発想が新しい生活スタイルのヒントになるのではないだろうか。
 
 
(ライター 古俣慎吾)
 
 
 
 

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